中小企業が経済開放を脅威ではなく成長機会とする上で、海外市場の獲得とこれによる競争力の高いイノベーションを相乗的に実現することは、極めて重要な挑戦である。現在、日本貿易振興機構(JETRO)などの各種機関が中小企業の国際化を支援すべく、現地情報の提供や海外販売支援などを実施している。
他方、東京大学の戸堂康之教授は、中小企業の国際化が経営者のリスク志向など企業固有の要因に強く依存しており、輸出企業と同程度の生産性をもちながら国際化しない中小企業が多く存在すると指摘した。これは中小企業の国際化には技術的な競争力以外の制約要因が存在し、既存の支援施策だけでは完全に対応しきれていないことを示唆する。
経済産業研究所と京都大が2010年に共催した中小企業の国際化とイノベーションに関する政策の姿を探る公開シンポジウムでは、こうした要因として激しい国際市況の変動に耐えうる頑健な財務体質や現地市場における質の高い情報をもたらす現地パートナーの必要性が指摘された。また、中小企業は大企業に比べ資金や人員などに「あそび」が少ないため、国際化に資源を投下することの機会費用が大きい。このため、国内市場である程度の利潤を確保できる中小企業は国際化より国内市場での売り上げ確保に資源を振り向ける可能性が高い。
国際化の費用は他にもある。海外の顧客に支持されるには、現地の所得水準や規格などに応じた仕様変更や新製品の開発が必要になる。中小企業が海外市場で得た知識を有効なイノベーションに還元するため、旺盛な研究開発活動も求められる。こうした国際化前後のイノベーション活動は既存の海外進出支援の対象ではないが、グローバル企業としての地位を確立する上で重要な取り組みである。
単なるコスト削減ではなく海外市場獲得に軸足をより置いた国際化を中小企業に促すには、中小企業特有の「制約要因」の解明を進めこれに対応したよりきめ細かな支援施策が必要だ。また既存施策が主に海外進出自体を目的とするのに対し、進出後の新製品・ビジネス開発など現地市場への浸透に向けた努力を支援する施策の拡充も望まれる。
2012年4月2日 日本経済新聞「やさしい経済学―経済開放とイノベーション」に掲載