生き残りの三大条件
①信金「3つのビジョン」を目指すこと
②経営基盤の確立
③幅広い連携の強化
信金「3つのビジョン」を目指すこと
信金「3つのビジョン」とは、1968年に全国信用金庫協会が採択した、「中小企業の健全な発展」、「豊かな国民生活の実現」、「地域社会繁栄への奉仕」のビジョンを指す。筆者は、2018年5月に公表された全国信用金庫協会の「2025年信用金庫ビジョン(追補版)〜これからの10年を見据えた業界への新たな提言〜」の策定作業にオブザーパーとして参加した。 多くの信用金庫の関係者と長い時間をかけて信用金庫のあり方を検討したが、最終報告書で示したように、この「3つのビジョン」の実現こそが、信用金庫の普遍的な「社会的使命」 であることを改めて確認できた。
人口減やマイナス金利などで経営環境が厳しくなり、信用金庫や信用組合の収益力が大きく低下している。こうした中で、利ざやの落ち込みをボリュームの拡大でカバーしようとして、新規貸出先の開拓にしのぎを削っている信金・信組も少なくない。しかし、規模の経済が働く金融業において、規模の大きな銀行と同じことをしていては、信金・信組が勝てる見込みがないのは明らかである。
しかし、奇をてらった施策では持続性はなく、提供するサービスが社会から求められ続けるビジネスモデルでなければならない。それを端的に表したのが信金「3つのビジョン」である。もちろん、具体的な方法は時代とともに変わっていくべきである。例えば、「中小企業の健全な発展」のために、かつては資金不足の中小企業に金融をつけることが最も重要な仕事であった。しかし、現在の経済環境では、資金不足の解消以上に深刻な経営課題を多くの中小企業が抱えており、信金信組が提供すべきソリューションは金融に限られないのである。
地域の中小企業の課題解決の中心的な役割を担うのだという使命感を持ち、上記のビジョ ンに照らし合わせながら、局面に合わせて適切な行動を決定していく姿勢が求められる。
経営基盤の確立
協同組織金融機関の特徴の一つが非営利性であるが、採算を度外視しても良いというわけではない。どんなに顧客に喜ばれるサービスであっても採算割れで、経営体として存続できなくなれば、結果としては顧客に非常に大きな迷惑をかけることになる。したがって顧客の企業価値の向上に貢献することを通じて、金融機関自身にも適切な収益をもたらすようなビジネスモデルの構築が求められている(いわゆる「共通価値の創造」)。
また、金融機関の最重要な経営基盤は人材である。入手不足が強まっていく中で、優秀な人材を獲得していくために、働きがいのある職場環境を作っていかなければならない。
大きな環境変化の下で、こうしたことを実現するには従来の仕事のやり方を変えないといけない。改革を進めて行くには社内外の摩擦も起こり、経営者のリーダーシップが不可 欠である。しかし残念ながら、金融庁が指摘 するように、「希望的な観測に頼った経営を行っている先や、現在のビジネスモデルの持続可能性に大きな懸念があるにも関わらず必要な経営改革を行わ」ない金融機関がある(『平成29事務年度 金融行政方針』)。
そこで自己改革を促すように、経営者への監視圧力を強める必要がある。幸い、総代会制度の規律付け機能を補完するために、信用金庫業界では、職員外理事が事実上必置となっている。それが所期の目的を果たすことが期待される。
幅広い連携の強化
信用金庫や信用組合は個々に見ると規模は小さく、狭域で展開しており、単独でできることには限界がある。経営統合を図って規模を大きくすることも一つの方策であるが、経営体として独立していることで多様な地域のニーズに迅速かつ柔軟に対応できるというメリットも大きい。規模の小さな経営体のままでいることを選択するなら、他の金融機関以上に連携に積極的に取り組むことが必要である。
まずは、それぞれの業界内の相互連携である。データ処理などですでに共同化が行われているし、ビジネスマッチングの相手方を紹介するといったことももちろん重要であるが、目指すべきビジョンを共有していることから、人材教育や人事交流の面を連携しながら強化することが、筆者が挙げた第1の生き残りの条件「ピジョンの堅持」にもつながる。
もちろん、連携相手は業界内だけではない。民間銀行に加えて、日本政策金融公庫や商工中金、地域経済活性化支援機構(REVIC)も重要な連携先であるし、2018年4月に新しい信用保証制度が始まり、各地の信用保証協会も金融機関との連携に熱心に取り組むようになっている。さらには、企業の顧問税理士・会計士との連携も有望である。
中小企業を応援したいという様々な主体とうまく連携することが生き残りの鍵となろう。
『金融ジャーナル』2018年8月号に掲載