現場目線でみた経営者保証改革

家森 信善
ファカルティフェロー

経営者保証不要の融資慣行の確立へ

経営者保証には、経営者が過度なリスクを負うため、創業や大胆な事業展開、早期の事業再生をためらわせる要因となるという弊害がある。また、後継者が保証を引き継ぐことを嫌がるため、事業承継が円滑に進まない弊害もある。これらの課題に対応するため、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取り組みが進められている(注1)。

昨年8月、筆者は「経営者保証不要の融資慣行の確立に向けて」というタイトルの小論をRIETIコラムに寄稿した(家森 2023)。そこでは、経営者保証改革が加速化しており、融資慣行に変化の兆しがみられることを指摘した。そして、経済産業研究所ファカルティフェローとして実施しているプロジェクトで金融機関支店長アンケートを行い、営業現場での経営者保証改革の状況について分析する予定であると述べた。

実際に、2023年11~12月に、全国の地域金融機関の営業店舗の支店長7,000人に対して調査を実施し、2,516人から回答を得ることができた。本稿では、この調査結果を基に、経営者保証に依存しない融資慣行が広がっているものの、現場の納得感はまだ十分ではないことを指摘したい。

2023年度にみられた大きな進展

支店長アンケートを紹介する前に、まず、2023年度に経営者保証不要の融資が大きく広がったことを確認しておきたい。それを示したのが図1である。これは、経営者保証に依存しない新規融資の割合の推移を示している。

民間金融機関の平均値の推移を見ると、2014年度には12%であったものが、毎年数%程度、着実に上昇を続けていた。そして、2023年度には目覚ましい上昇を記録し、1年間で15%ポイントも高くなり、ほぼ半分の新規融資が経営者保証に依存しない状況になった。

これだけの急激な上昇の大きな理由は、2023年4月の金融庁の監督指針の改正である(注2)。この改正では、金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して、①どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか、②どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、などについて、個別具体的に説明をすること、および、その結果を記録することを求めている。簡単に言えば、経営者保証なしの融資が標準となり、経営者保証をとる場合には、特別な説明と記録が求められることになったのである。

図1:経営者保証に依存しない新規融資の割合
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図1:経営者保証に依存しない新規融資の割合
(出所)金融庁「民間金融機関における『経営者保証に関するガイドライン』の活用実績」および中小企業庁「政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」「信用保証協会における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績」より中小企業庁作成
(直接の出所)中小企業庁HP https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/

金融機関支店長から見た経営者保証改革

われわれが実施した支店長アンケートでは、13の観点について融資判断においてどの程度重視するかを5段階で評価するように尋ねてみた。その結果が表1である。

「非常に重視する」の回答比率の順で表は整理しているが、最も多かったのは「財務の健全性や収益性」であり、ほぼ同じ水準で「経営者の資質・やる気」が続いている。一方、「経営者保証の差し入れ」を「非常に重視する」という回答はわずか1.1%しかなく、「重視する」を含めても13.9%で、今回尋ねた13の観点の中で最も低く、一方で「ほとんど重視しない」と「重視しない」は合計で4割を超えている。つまり、地域金融の現場で、融資判断は経営者保証に依存しなくなっているのである。

表には示していないが、金融業態別にみると、「非常に重視する」の比率は、地方銀行0.3%、第二地方銀行0.0%、信用金庫1.7%、信用組合1.8%となっており、全ての業態でほぼゼロになっている。ただ、「重視する」をみると、銀行業態が5%程度なのに対して、信用金庫で16%、信用組合で28%とかなりの差がみられた。小規模企業ほど法人と経営者が明確に区分・分離されていないことが多いなどの背景があると思われるものの、協同組織金融機関でのさらなる取り組みを期待したいところである。

表1:融資判断において重視する度合い(%)
全体
(人数)
非常に重視する 重視する 少しは重視する ほとんど重視しない 重視しない わからない
財務の健全性や収益性 2,454 38.9 55.3 4.6 0.1 0.0 1.1
経営者の資質・やる気 2,454 37.2 55.0 6.3 0.3 0.1 1.1
過去の返済の状況 2,454 20.3 59.4 18.0 1.2 0.1 1.0
プロジェクト(ビジネスプラン)の質の評価 2,445 19.3 65.4 13.2 0.5 0.0 1.5
企業から提供される情報の質や開示姿勢 2,454 18.3 59.7 19.7 0.9 0.1 1.2
売上(現在の売上および成長見込み) 2,454 16.7 61.7 19.2 1.3 0.1 1.1
信用保証協会からの保証承諾 2,452 16.3 46.3 31.0 4.2 0.9 1.3
以前からの取引関係 2,451 16.1 65.0 17.3 0.4 0.1 1.1
財務諸表に現れない非財務価値 2,453 15.5 57.8 23.4 1.8 0.2 1.4
事業主の資産状況 2,451 9.5 53.1 33.3 2.9 0.1 1.1
提供された担保の質 2,451 4.7 34.6 47.9 10.2 1.5 1.2
事業主の年齢 2,452 2.5 30.2 54.7 10.6 0.8 1.1
経営者保証の差し入れ 2,450 1.1 12.8 42.8 32.7 9.1 1.6

さらに、支店長アンケートでは、経営者保証に関連して、以下の2つの意見に対する共感度を尋ねた(結果は表2を参照)。

  1. 経営者保証は、創業や経営者の生産性アップ、また事業承継や早期の事業再生を阻害している
  2. 経営者保証がなくても経営者を規律付けることは可能である

①は一般に経営者保証の弊害として言われていることであるが、「ある程度共感」を含めても4人に1人しか共感していないことになる。表でみたように急激に経営者保証は減ってきているが、まだまだ腹落ちしていない支店長が多いことを意味している。経営者保証に依存しない融資慣行が広がり、実際に創業が増えたり、経営者が前向きなリスクテイクを行うようになって効果が目に見えるようにならないと、こうした意見は根強く残ることになると思われる。行政機関だけではなく、われわれ研究者もそうして点でのエビデンスを提示していくことが求められていると言える。

②については、「ある程度共感」を含めれば、7割近い支店長からの共感を得ている。事業者との日常的な関係性を強化することが基本的な対応策であると考えられ、実際、既存顧客向けの渉外活動時間も増加傾向にある(注3)。その他にも、例えば、植杉(2022)では、コベナンツ(財務制限条項・・例えば純資産額をプラスに維持している限りにおいて、経営者保証を免除)が規律付けの代替として活用できる可能性を指摘している。

また、われわれの調査では、8.1%が「与信判断や経営者保証の必要性の判断に、税理士法第33条の2に基づく書面添付制度を活用している」と回答している。まだ、ごくわずかな支店長しか実践していないが、税理士との連携が規律付けの代替となる可能性も追求していく必要がある。

表2:経営者保証に対する支店長の意見
調査数 強く共感 ある程度共感 ほとんど共感しない 全く共感しない わからない
①経営者保証は、創業や経営者の生産性アップ、また事業承継や早期の事業再生を阻害している 2,475 2.2 25.9 56.8 10.3 4.7
②経営者保証がなくても経営者を規律付けることは可能である 2,475 5.1 61.3 23.0 2.7 8.0

経営者保証改革の真の目的の理解を広げる努力を

筆者が2023年9月に主催したシンポジウムで登壇してもらった創業者は経営が厳しかった頃を思い起こして、「経営者保証制度により、この時は首元に刃を突き付けられているような気持ちになっていました。」と発言していた(家森・日下[2024])。こうした気持ちを持つ事業者が借入に過度に慎重になるのは十分に理解できる。そうした観点から、2023年度に民間融資において経営者保証に依存しない割合が急激に高まったことは歓迎できる。

しかし、経営者保証改革の真意が十分に現場に浸透しているとはまだ言えないことが、われわれの支店長アンケートからうかがえた。すなわち、多くの支店長にとって、経営者保証を外す積極的な理由についてはまだ十分に納得しているわけではないが、監督当局の方針を踏まえるとその方向に動かざるを得なく、融資判断において経営者保証を重視しない実務が広がってきているというわけである。

だが、これでは改革の目的が達成できない。悪くすると、経営者保証の有無の判断が難しい先にはお金を貸さないということになりかねない。経営者保証改革は、金融機関と事業者の両者にとって経営者保証に依存しない融資のメリットが大きいから進めているのである(注4)。監督指針に書いてあるので説明をしているという状況から、事業者の成長を応援するために経営者保証を外そうというように現場の意識が変わらなければならない。

そのためには、金融機関の経営者が従業員に経営方針をしっかりと浸透させるとともに(注5)、行政当局や、RIETI、そしてわれわれ研究者が、経営者保証改革の成果を納得できる形で示していかねばならない。

脚注
  1. ^ 経済産業省・金融庁・財務省「経営者保証改革プログラム」(2022年12月23日)については、https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/01.pdf および、中小企業庁の経営者保証の特設ページ https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/ を参照してほしい。
  2. ^ 金融庁の監督指針の改正内容の詳細は、https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-4/02.pdf を参照して欲しい。
  3. ^ 特に顕著なのが地方銀行で、コロナ禍発生前と比べて、「横ばい」が64.0%と大宗を占めているが、「増加」が23.7%であるのに対して、「減少」は9.8%であった。
  4. ^ 東京商工リサーチが2024年4月に実施したアンケート調査(3761社)によると、75%の企業が経営者保証を外したいと回答しているが、資本金1億円未満の3462社では経営者保証を提供していないのは48.5%にとどまっている。また、家森・日下(2024)に所収の船井総研アンケート調査(2023年8月実施 208社回答)によると、経営者保証を提供している経営者の内、経営者保証の解除の打診をしたのはわずか18%であった。また、解除を申し出て断られた場合に、金融機関からの説明がなかったという回答(監督指針の改正前の時期も含まれる)がほぼ半数であった。事業者が金融機関に対してしっかりと説明を求めていない(できない)という課題もある。金融機関だけではなく、事業者の側の意識改革も引き続き重要である。
  5. ^ 支店長アンケートでは、「経営陣の掲げる経営方針は会社の隅々まで浸透している」と考える支店長はわずか13%であった。
参考文献
  • 植杉威一郎 『中小企業金融の経済学』 日本経済新聞出版 2022年。
  • 家森信善 「経営者保証不要の融資慣行の確立に向けて」 経済産業研究所コラム 2023年8月2日 https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0730.html
  • 家森信善・日下智晴編著『経営者保証改革と中小企業経営』 神戸大学経済経営研究所 経済経営研究叢書 金融研究シリーズ No.12 2024年3月。

2024年9月9日掲載

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