あらためて考える金融機能強化法
資本注入制度を活用してビジネスモデルの転換を

家森 信善 ファカルティフェロー

金融機能早期健全化法などの経験を経て、2004年に金融機能強化法が制定された。これまで3回の大きな改正があり、金融経済環境の変化に対応して、「破綻の回避手段」というよりも「地域経済や中小企業の支援の充実を促す手段」として運用されるようになってきた。したがって、事業モデルの転換を進めている注入先に対しては短期的数値目標による規律付けを緩和するのは妥当であろう。一方で、改革の意欲のない先については厳しく臨むべきである。

早期健全化法から金融機能強化法へ

銀行への公的資金の資本注入とは、銀行の自己資本を増強するために、政府が銀行の発行する株式や債券などを引き受けたり、銀行に劣後性の資金を貸し付けたりすることである。不良債権の処理の増加などで銀行の自己資本が不足した場合、銀行は一般の株主から資金を調達するのが本来であるが、なんらかの理由で増資が困難なときに政府が公的資金を注入することができるように法整備が進められてきた。

銀行への公的資金注入が初めて行われたのは、1998年3月の金融機能安定化法に基づく大手銀行など21行に対する資本増強であった。しかし、それだけでは金融システムの安定性が回復できなかったので、金融機能早期健全化法によって99年3月以降、総額8.6兆円の資本注入が行われた。早期健全化法による資本注入が2002年3月で終了していたため、03年5月のりそな銀行に対する公的資金の注入は預金保険法に定めのある金融危機対応制度に基づいて実施された。

金融危機対応制度は金融危機が起こりそうな非常事態にのみ発動できることになっており、問題が起こってからの対応となる。そこで、ペイオフの完全解禁を控えて、資本力が乏しいがまだ問題を起こしていない金融機関に対して予防的に資本を注入できる制度が必要だとされた。そして04年6月に制定されたのが「金融機能の強化のための特別措置に関する法律」(金融機能強化法)である。

中小企業支援強化のための改正

金融機能強化法は、これまでに3回の大きな改正があった(図表1)。資本増強によって金融機能の強化を図り、地域経済の活性化を実現させる目的は変わらないものの、「地域の中小企業に対する支援機能の強化」へとその視点を移してきている。

図表1:金融機能強化法の利用委状況
利用実績(延べ)
04年6月 金融機能強化法成立
・2008年3月まで申請受付
2機関 405億円
08年12月 改正法成立
・12年3月まで申請受付
・中小企業の金融円滑化目的を明確化
・経営責任などを一律には求めない
11機関 3,090億円
11年6月 改正法成立
・17年3月まで申請期間延長
・東日本大震災被災地金融機関の特例
21機関 3,153.4億円
16年11月 改正法成立
・22年3月まで申請期間延長
- -
出所:金融庁および預金保険帰国のウェブサイト等をもとに筆者作成。

早期健全化法などでは資本注入を受けること自体が経営の失敗を意味しており、注入を受ける際に経営責任を厳しく問うこととされていた。また、資本注入後も経営パフォーマンスについて厳しい数値目標を課して、それが履行できない場合には役員の退任など厳しい措置がとられてきた。こうした規律付け措置はモラルハザードを防止し、かつ「銀行だけを特別扱いしている」という国民の反発に配慮するためにも必要であった。しかし、こうした強権路線に対して、多くの銀行経営者は公的資金の資本注入を申請せずに、貸出の抑制(「貸し渋り」や「貸し剥がし」など)のかたちで資本不足に対応しようとした。このために、金融の円滑化という資本注入のもう1つの目的が十分に実現できなかった。

そこで、04年に制定された金融機能強化法では、自己資本比率が基準値未満の場合には経営者や株主の責任が問われるものの、基準値以上の場合にはそうした責任が問われないこととなった。また、抜本的な組織再編を行わない場合にのみ、経営強化計画の数値目標未達成の責任が問われることなどが規定され、規律付けと金融の円滑化とのバランスをとろうとした。

ただ、実際の運用においては、これまでの規律付け重視の性格が抜けきれず、たとえば、06年3月期に自己資本比率が4%を下回り早期是正措置命令を受けた豊和銀行の場合、主要な役員の退任、自助努力による資本増強(90億円)、55%の減資の実施など、経営者や株主の責任を果たしたうえで、「08年まで無配の継続」「経営強化計画におけるコア業務純益ROAの改善幅などの数値目標が未達成となった場合には代表取締役が退任すること」などを約束して、公的資金の注入を受けた。こうした厳しい規律付けが実質的に残ったために、豊和銀行と紀陽銀行の2銀行しか利用しないまま、08年3月の申請期限を迎えてしまった。

08年9月にリーマンショックが発生し、金融システムに不安定化の兆しが生じてきたために、予防的な資本注入の枠組みが必要であるとの認識が強まり、08年12月に金融機能強化法の改正法が成立した。08年改正法では申請の促進を狙って、経営改善目標が未達成の場合の経営責任や、自己資本比率が基準値未満の場合の経営者や株主の責任を一律には問わないなど、規律付け措置が緩和された。リーマンショックという厳しい経済環境もあったが、09年3月には北洋銀行に対して1000億円の注入が行われるなど、旧法に比べて多くの金融機関が利用することとなった。

11年6月には、同年3月に発生した東日本大震災からの復興を促すために、被災地の金融機関を支援するための特例措置が設けられた。この震災特例では、「経営責任は求めないこと」「経営強化計画において収益性や効率性に関する目標設定を求めないこと」など、条件の弾力化が行われ、また投入される資本のコストも優遇された。あわせて、本則についての申請期限を17年3月までとする延長措置もとられた。そして16年11月には、期限をさらに5年間延長して22年3月までとする改正法が成立した。

ビジネスモデルの転換が進まない注入行

金融機能強化法の効果を銀行の財務データを使って分析した研究(注1)によると、金融機能強化法による資本注入を受けた銀行は、非注入行よりも総貸出や中小企業向け貸出を増加させている。また、注入行は保証の利用を減らしている。さらに、震災特例による資本注入行は、担保や保証を利用せずに中小企業向け貸出を増加させており、被災地の復興を金融面から強く支えている。このように当該研究は、「金融機能強化法による資本注入は中小企業向け貸出の円滑化に効果があった」と結論している。

次に、筆者が17年に実施した金融機関本店向けアンケート調査(注2)を利用して、公的資金の注入を受けた金融機関とそうでない金融機関との間でどのような違いがみられるかを調べてみる。このアンケート調査は、17年1〜2月に全国520の金融機関の本部・本店を対象にして実施したもので、280機関(信用金庫150、信用組合85、地方銀行27、第二地方銀行16、都市銀行等2)からの回答を得ている。

本調査では金融機関の名前は特定できないが、公的資金の資本注入に関して、「1.過去に受けたことがあり、まだ完済していない」(注入未完済)、「2. 過去に受けたことがあるが、全額返済した」(注入完済)、「3.受けたことがない」(非注入)の3つから選択してもらっている。回答結果は、「注入未完済」が23、「注入完済」が13、「非注入」が238、「無回答」が6であった。ただし、この質問の回答は、金融機能強化法に基づく資本注入だけには限られない。資本注入および返済の実績から判断すると、「注入未完済」は金融機能強化法の適用機関、「注入完済」は早期健全化法などの適用機関が多いものと想定される。

本調査では、自社の強みと思うものを12の選択肢のなかからすべて選んでもらう質問を行っている。その選択状況を公的資金の受入れ状況別に整理してみたのが図表2である。この表では、受入れの有無によって差異がある項目のみを示している。注入未完済金融機関では「財務の健全性」をあげる比率が非常に低い。公的資金によって自己資本比率は改善しているはずであるが、実質的な財務状況は厳しいと認識しているのであろう。「最後まで支援する姿勢」を強みだとする注入未完済金融機関が多いことは、公的資金の資本注入の意図に合致しているといえる。他方で、「職員の親身な姿勢」が弱いのは、経営強化計画に定められた収益確保のために、企業に寄り添った支援ができていないことを意味するのであろう。

図表2:自社の強み(単位 %)
注入未完済 注入完済 非注入
職員の親身な姿勢 69.8 61.5 78.5
最後まで支援する姿勢 69.6 61.5 53.8
財務の健全性 8.7 61.5 48.4
(回答数) (23) (13) (237)

次に、事業性の貸出先として、とくに注力したいセグメントをすべて選んでもらう質問への回答結果をまとめたのが図表3である。最も多い「注力したいセグメント」を比較すると、注入未完済金融機関と非注入金融機関は「中位の格付けの非メイン先(現在、取引のない先を含む)」であり、注入完済金融機関は「中位の格付けのメイン先」であった。また、「低位の格付けのメイン先」についても、注入完済金融機関が相対的に重視している。このように、多くの注入未完済金融機関は、非メイン先への取引の拡大を目指しているようである。

図表3:今後注力したいセグメント(単位 %)
注入未完済 注入完済 非注入
1. 高格付けの非メイン先(現在、取引のない先を含む) 26.1 38.4 32.5
2. 高格付けのメイン先 30.4 45.5 32.1
3. 中位の格付けの非メイン先(現在、取引のない先を含む) 100.0 81.8 79.1
4. 中位の格付けのメイン先 73.9 90.9 73.1
5. 低位の格付けの非メイン先(現在、取引のない先を含む) 56.5 54.5 30.3
6. 低位の格付けのメイン先 47.8 63.6 46.6
(回答数) (23) (11) (234)

しかし、そうした金融機関が他行から顧客を奪えるだけの魅力的な商品やサービスを提供できるのかは疑問であり、たんなるボリューム競争に走っている心配がある。多くの注入未完済金融機関の経営戦略が持続可能なのかの検証が必要であると思われる。

本調査で、企業再生に取り組むうえで抱えている問題点について尋ねた結果が図表4である。もともと資本注入が必要になったのは不良債権の発生が主たる要因であったことから、「再生支援企業の事業環境が厳しい」との回答が注入未完済金融機関で多いのは自然であろう。他方で、公的資金の注入によって金融機関の支援体制の整備が期待されていたものの、「貴社の職員の支援に関する能力や経験が不十分である」との回答が多いことは、資本注入の目的が十分に達成できていないことを意味している。

図表4:企業再生に取り組むうえで抱えている問題点(単位 %)
注入未完済 注入完済 非注入
再生支援企業の事業環境が厳しい 81.8 50.0 62.4
貴社の職員の支援に関する能力や経験が不十分である 72.7 50.0 57.3
(回答数) (22) (12) (234)

筆者は、金融機関の経営支援姿勢が強化できていないのは人事評価制度に問題があると考えてきた。本調査で、一般職員の業績評価における「既存企業に対する経営支援への取組み」のウェイトを尋ねたところ、「非常に重要」との回答の比率をみると、注入未完済金融機関(21機関)が23.8%、注入完済金融機関(10機関)が50.0%、非注入金融機関(214機関)が36.0%であり、注入未完済金融機関が最も低い。目先の成果につながりにくい経営支援の評価が低ければ、職員が当該能力を高める気持をもたず、図表4にみられるように「職員の能力不足」という結果になるのは当然であろう。

本調査では、現在の人事評価や人事政策について具体的な8つの選択肢からあてはまるものを尋ねた質問も行っている。その結果の一部をまとめたのが図表5である。これをみると、注入未完済金融機関が企業支援にとって不可欠な人事評価の仕組みの導入に立ち遅れていることがわかる。たとえば、注入未完済金融機関では「長期の取組みを評価できる仕組みとなっている」ところはゼロである。一方で、注入完済金融機関では、いずれの評価制度の導入率も高い。注入完済金融機関はこうした人事改革を進めた結果、図表4でみたような企業再建支援の際の人的な障害も減っており、公的資金も完済できたということになる。

図表5:人事評価の状況(単位 %)
注入未完済 注入完済 非注入
(結果だけでなく)プロセスの評価が組み込まれている 56.5 72.7 53.9
定性的な評価が組み込まれている 69.9 100.0 65.7
長期の取り組みを評価できる仕組みとなっている 0.9 36.4 9.6
(回答数) (23) (11) (230)

筆者自身の金融機能強化審査会での経験から、公的資金の受入れ先には、顧客支援の先端的な取組みを行っている銀行があることを知っている。しかしながら、本稿で紹介したアンケート調査の分析からは、公的資金を受け入れた金融機関の多くがビジネスモデルの転換途上にあり、人事評価の面で抜本的な取組みがいまだにできていないことも明らかになった。こうした金融機関のビジネスモデルの転換を支援することが資本注入制度の新しい課題になっている。

金融庁は強権から育成へ

資本増強により金融機能の強化を図り、地域経済の活性化を実現させるという金融機能強化法の目的は変わらないものの、これまでの改正により地域の中小企業への支援機能の強化へとその視点が移ってきた。また、そうした視点の変化に対応して監督姿勢も、モラルハザードを防ぐための規律付けを重視した強権路線から、(短期的な収益の確保に過度にこだわらない)事業モデルの転換を促す育成路線へと変化してきた。

こうしたなかで、17年度に行われた福邦銀行と南日本銀行の前計画(14〜16年度)の評価が注目されている。両行の前計画では大幅に数値目標を下回っているが、「目標未達だけに着目して、一律に厳しい態度で臨む方針をやめ」「地元へ資金供給を拡大するモデルへの転換を促す」姿勢で監督対応が行われたと一部メディアで報じられた(注3)。

南日本銀行はWIN-WINネット業務(新販路開拓コンサルティング)の展開などで顧客支援の姿勢が強い銀行として知られているが、それでも同行の経営強化計画によれば、短期的な収益の追求が足かせになって事業モデルの転換が進まない本末転倒な事態が発生していた。たとえば、事業内容を十分に理解しなくとも貸出可能なアパート建設への融資に注力するとか、投資信託や保険の販売に注力することなどによって期間収益を確保してきた。こうした反省に立って、南日本銀行はWIN-WINネット業務を中心とした顧客本位の業務運営により中長期的な収益を確保していく方針に転換することを、新しい経営強化計画で宣言したのである。

金融仲介機能の発揮を中心としたビジネスモデルの確立に向けた動きを促す金融庁の姿勢を支持したいと筆者は思っている。しかしながら、育成路線にはモラルハザードの心配がつきものである。そのリスクを小さくするには少なくとも2つのことが必要である。第1に、継続的な当局によるコンサルティングである。3年に1度の終期時点での評価だけではなく、途中での丁寧なプロセス評価を行う必要がある。改革が遅れている場合には、社内改革の背中を押すことも必要になろう。第2に、改善の意欲や実行力が経営陣にないと判断された場合には、厳しい措置を避けるべきではないことも強調しておきたい。

(筆者は金融機能強化審査会の委員を10年9月から務めているが、本稿での見解は筆者個人のものであって、同審査会や金融庁の見解を代表するものではない。)

『金融財政事情』2017年11月20日号に掲載

脚注
  1. ^ 永田邦和「資本注入と地域銀行の貸出行動」家森信善編著『地方創生のための地域金融の役割─金融仲介の質の向上を目指して─』(中央経済社、18年(出版予定))
  2. ^ 家森信善・冨村圭・尾島雅夫・朱彤「地方創生に関する地域金融の現状と課題-2017年・金融機関本部向け調査の概要報告-」(神戸大学経済経営研究所、17年7月)
  3. ^ 日本経済新聞(17年9月3日および5日)

2017年12月20日掲載

この著者の記事