信用保証制度改革に対する誤解を正す

家森 信善
ファカルティフェロー

大改革の出発点は中小企業支援の強化

今年2月に「中小企業の経営の改善発達を促進するための中小企業信用保険法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され、国会に提出された。これは、2005年の中小企業政策審議会「信用補完制度のあり方に関する取りまとめ」を受けて実施された保証料率の弾力化(06年)や責任共有制度の導入(07年)以来となる、大規模な信用保証制度の改革である。

今回の改革の議論の場になった中小企業政策審議会・金融ワーキングーグルーブ(WG)は、「日本再興戦略2015」(15年6月)において、「金融機関が経営改善や生産性向上等の支援に一層積極的に取り組むよう促すため、信用保証制度の在り方について検討する」とされたのを受けて設置された。このことが象徴しているように、議論の出発点が、信用保証制度の財政問題ではなく、中小企業支援の強化にあったことをまず強調しておきたい。

さて、約1年の議論を経て、金融WGは16年12月に報告書「中小企業・小規模事業者の事業の発展を支える持続可能な信用補完制度の確立に向けて」を取りまとめた。このタイトルにも、中小企業・小規模事業者の事業の発展を支えるための改革であることがよく表われている。

この金融WG報告書の考え方がほぼそのまま法案に反映されているし、金融庁、中小企業庁の監督指針なども同報告書の考え方を反映して改定される見込みである。そこで、本稿では金融WG報告書のエッセンスを紹介し、さらに改革に対する誤解を解いておきたい。

プロパー融資を含めたリスク分担を提言

報告書では、中小企業金融において信用保証制度の役割が引き続き重要であることを確認したうえで、「信用保証協会と金融機関のリスク分担のあり方を見直すことにより、金融機関に対して事業を評価した融資を行いつつ、適切な期中管理・経営支援を実施することを促す」という今次改革の目的を明確に打ち出している。

保証協会と金融機関のリスク分担の見直しとしては、現在の責任共有制度における保証割合80%の引下げも議論の俎上にのぼった。しかし最終的には、一律に保証割合を引き下げるよりも、過度な信用保証への依存を回避し、プロパー融資を含めた債務者への融資全体で実質的にリスクを分担するほうが中小企業支援の観点から有効だとの結論に至った。

たとえば、100の融資を受けているA社を考えてみる。そのうち50に保証(80%保証)が付き、残りの50がプロパー融資だとすると、A社債権のうち40が保証協会の負担、60が金融機関の負担となり、実質的な金融機関のリスク負担率は60%である。

ここで、かりにA社の業績が悪化し、民間金融機関が従来どおりにリスクをとれなくなったとしよう。報告書が提案しているリスク分担の考え方のもとでは、たとえばプロパー融資の割合を20%に下げることで、民間金融機関のリスク負担率は36%まで下げることができる。もし当該企業の事業性が失われていないなら、厳しい環境でも信用保証を使ってA社への融資が継続できるであろう。逆に、一律の負担割合としてしまっては、こうした場合にA社への資金供給が止まってしまうおそれがある。

このようにプロパーと保証付き融資の割合を企業のライフステージや状況に合わせて柔軟に調整していこうというのが、報告書の提案した考え方(簡単にいえば「協調保証」)である。

ただし、柔軟な仕組みは悪くすると金融機関のモラルハザードを生みかねない。保証協会の支援姿勢にただ乗りして、メインバンクが責任を放棄してしまっては、今回の制度改正の意図とは真逆になってしまう。企業の業況が悪くなったときに支援するのはメインバンクの役割である。銀行の事情ではなく、企業の事情に応じて最適に分担割合を調整していけるかが、今後の焦点になる。

ライフステージに応じた信用保証の役割の見直し

報告書では、ライフステージに応じた信用保証の利用のあり方を整理している。

信用保証による支援の拡大を提案している分野が創業期と再生期の企業に対するものである。(1)創業保証(100%保証)の限度額を現行の1000万円から2000万円に拡充すること、(2)再生期の企業に関しては事業承継や円滑な撤退に役立つような新しい保証メニューを創設すること、(3)小規模企業向けの100%保証の限度額について現行の1250万円から2000万円に拡充すること--を提案している。

逆に、縮小を提案しているのが成長期の企業向けである。成長とともにプロパー融資を確保することにより信用保証への依存度を下げて、最終的には信用保証からの卒業を目指すことが望ましいと明記している。

このように今回の信用保証改革は、必要な企業には信用保証を活用して十分な信用供給を実現しつつ、自らの信用力でプロパー資金を借りられるように成長した企業が、いつまでも信用保証を利用する状況を解消することを目指しているのである。

注意しておきたいのは、すべての改革提案が企業への支援を強化するという観点で考えられている点である。たとえば、上述したように、小規模企業向け100%保証の枠の拡大が盛り込まれているが、金融WG報告書では「新規資金の調達を容易とし経営の立て直しを可能とする」ことがその目的だとしている。したがって、返済が苦しくなっている小規模企業に対して、たんに拡大した枠を使って返済負担を先送りするという利用姿勢の金融機関があるとすれば、それは考え違いである。そうした目的での利用の申込みがあれば、保証協会は再考を促すはずである。逆にいえば、小規模企業が困難な状況から脱却できるような取組みのために、拡大された枠が利用されているかをチェックするのが、保証協会に新たに求められる役割の1つなのである。

時限的な危機対応制度の創設を

リーマンショック時の緊急保証制度は、中小企業を守るのに大きな効果があったと評価できる。しかし、他国ではこうした緊急措置は最長でも2年程度で終了している。わが国では緊急保証が完全に終了するまでに5年以上かかってしまった。

特別に優遇された緊急措置が続いている間は、事業改善に対する企業の意欲が弱まってしまうし、ぬるま湯に浸かっている時間が長くなればなるほど、正常に戻るのがむずかしくなってしまう。そこで報告書は、リーマンショックのような大規模経済危機が発生したときには企業をしっかりと支えるが、ずるずると延長しないようにあらかじめ適用期間を限定した制度の創設を提案している。

もう1つ重要なのが、構造不況業種向けのセーフティネット保証(5号)の改革である。100%保証であったものを他の保証制度と同じ80%保証に変更することを提案している。これも、保証制度の役割を減らすためではなく、100%保証では金融機関の支援が十分に実施されず、中小企業においても経営改善に向けた経営努力が後退し、本来進められるべき構造的な改善等が進まないという点をふまえた提案なのである。

金融行政と進む方向は同じ

ところで、最近の金融行政は金融機関に対し、担保・保証に過度に依存することなく、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)するよう促している。今回の信用保証制度の改革は、金融行政の用語を使って言い直せば、「事業性評価に取り組むことへの金融機関のインセンティブを高めるもの」だと考えられる。

今回の改革は、金融行政と完全に同じ方向を向いている。その証拠に、金融庁は『平成28事務年度金融行政方針』のなかで、「信用保証制度について、事業者が自主的に経営改善に取り組むことを前提に、金融機関及び信用保証協会が事業者への経営改善支援に積極的に取り組むインセンティブが働くような制度の見直しが検討されており、こうした見直しの趣旨に沿った対応が進むよう金融機関と対話を行う」とわざわざ明記している。

今後の信用保証の適切な利用のためには、事業性評価と信用保証付き融資の関係について正しく理解しておくことが必要である。というのは、両者は相容れないものだと考えて、事業性評価を推進している金融庁は、借用保証の利用削減を民間金融機関に求めているという誤解が一部にあるとみられるからだ。

金融仲介機能のベンチマークと信用保証の関係

こうした誤解が広がるのも理由のないことではない。たとえば、金融庁が16年9月に公表した「金融仲介機能のベンチマーク」をみると、共通ベンチマークの項目(3)は、「担保・保証依存の融資姿勢からの転換」である。具体的なベンチマークは、「金融機関が事業性評価に基づく融資を行っている与信先数及び融資額」となっている。

しかし、ここで重要なのは、事業性評価とは「取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価」することだという点である。たとえば、取引先の事業性を子細に評価した結果、十分に事業性はあるものの、自行だけではリスクがとりきれず、保証付き融資を使うことによって保証協会とリスクを分担すれば支援することが可能な先があったとしよう。そうした判断に基づいて保証付き融資を実施した当該先は、事業性評価に基づく融資先なのである。逆に、信用保証の利用を頭から否定して、支援しなかった場合は、金融庁のいう「日本型金融排除」を実践してしまっていることになる。

また、選択ベンチマークのなかには、「地元の中小企業与信先のうち、無保証のメイン取引先の割合」や「中小企業向け融資のうち、信用保証協会保証付き融資額の割合」などが組み込まれている。これらは、保証付き融資を増やすことがマイナスに作用する指標であることは明らかである。

しかし、このことから、金融庁が暗に保証を減らすように促していると読み取るのは正しくない。金融WG報告書で、成長企業については信用保証からの卒業を目指すべきだと指摘していたことを思い出してほしい。かりにいままで不必要な先に対して信用保証を付けてきた金融機関があったとしたら、現場の信用保証依存症を改善して事業性評価に転換させるために、このベンチマークを使うべきであろう。一方で、金融WG報告書で、創業や事業再生などの分野での保証の積極的な活用を推奨していたことを思い出してほしい。そして、選択ベンチマークには「創業支援先数」や「事業承継支援先数」「転廃業支援先数」などが入っていることに気づいてもらえば、正しい理解ができるであろう。たとえば、保証協会の創業支援に熱心に取り組むことが地域経済にとって重要だと考える金融機関には、ベンチマークとして創業支援先数を選択し、創業保証を活用して創業支援を実施することが期待されているのである。

ここに、金融仲介機能のベンチマークが選択制をとっていることの意味がある。つまり、創業支援に注力している金融機関にとっては、保証利用が増えることが結果的に望ましい状況がありうる。そういう場合には、「信用保証協会保証付き融資額の割合」をベンチマークとして選択するべきではないということなのである。

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信用保証は、金融仲介機能の発揮のための有力な手段である。過剰な信用保証の利用が顧客の価値向上に役立たないのは間違いないが、同時に、必要な状況で利用しないのも顧客の価値向上を害することになる。つまり、事業内容の十分な理解に基づいて企業の成長発展を促すような信用保証の活用は歓迎されるべきなのである。改革の趣旨に沿って、信用保証を通じた企業支援の強化が図られることを期待したい。

『金融財政事情』2017年5月29日号に掲載

2017年6月23日掲載

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