女性活躍 なお残る課題-固定的な役割分業 改革を

山口 一男 客員研究員

ここ数年、現在進められている働き方改革を含め、経済活動における女性の活躍の推進を政府も後押しし、女性活躍推進法が2015年に成立した。一方、男女平等の度合いを示すジェンダー・ギャップ指数などを見る限り、男女の賃金格差は縮小傾向にあるが、日本の改善度は相対的に遅れ、男女平等度の順位を下げている現実がある。

近年唯一大きな改善が認められるのは女性の育児離職率の減少で、亜細亜大学の権丈英子教授によれば、第1子出産前後の継続就業率は05〜09年で40.5%であったのが、10〜14年では53.1%となった。女性の意識は時代の変化を予想して法の制定前に変わってきたのである。

実は同様の現象が1999年の男女共同参画基本法の制定前にも起こった。90年代半ばより女性の短大卒の割合が低下しはじめ、四年制大卒の増加傾向に拍車をかけた。だが日本企業が女性の選択の変化に応えたかというとそうではなく、企業の女性人材の不活用に大きな変化をもたらさず今日に至っている。

では近年の育児期の継続就業の増加の影響はどうか。これら日本企業の現状が続くなら、大きな改善に結びつかないと考える。以下その実証的根拠を示し、さらに従来あまり指摘されなかった日本における女性専門職の大きな偏りの問題と男女の賃金格差との関連について述べる。

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日本の男女賃金格差は経済協力開発機構(OECD)諸国内で韓国に続き2番目に大きい。1つの原因は女性に非正規雇用者が多いからだが、正規雇用者内の男女賃金格差がより大きな原因で、その主な要因は男女の大きな職階格差である。企業の人事担当者へのアンケート調査では、女性が離職し勤続年数が少ないことを管理職が少ないことの主な原因とするが、これは一面的主張である。

筆者の分析では、ホワイトカラーの正規雇用者で仮に女性が男性と同等の学歴、年齢、勤続年数を有したとしても、それで解消される課長以上割合の男女格差は21%、係長以上割合の格差は30%で、残りの格差は学歴、年齢、勤続年数が同等の男女の管理職昇進率に差があることで生じている。また男女の賃金格差は年齢と共に拡大するが、40歳以降での格差の増大はほぼ100%男女の職階差が広がることで説明できる。

また男女の管理職昇進率の違いに最も強く関係するのは残業時間の男女差である。これは女性が大多数の一般職など、恒常的残業から免除される職につくと、管理職昇進の機会が大きく減少する企業慣行に由来している。恒常的残業を時間管理の無能の証しとみる英米と異なり、わが国では管理職候補になるには会社の都合に合わせ時間的に無限定に働く意思があることを条件とし、恒常的に残業できない多くの女性は職務上の能力が高くても管理職に登用されない状態にある。

現在働き方改革で最大就業時間の設定が問題となっているが、過労死を出さないことが主たる目的で、長時間労働を前提とする働き方そのものを根本的に見直すという姿勢ではない。それならば今後も結婚後、特に出産後、いまだ家事育児に主たる役割を担わされている女性は活躍しようにもできない。女性活躍の推進には、長時間労働や働き方の柔軟性のない日本企業のあり方と、それを管理職の条件にして女性を登用しない企業のあり方が根本的に改められることがまず必要だ。

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今ひとつの問題は日本における女性の専門職の大きな偏りである。教育を例にとると小学校、中学校、高校、大学それぞれの教員の女性割合を15年のOECD統計で見ると日本は65%、42%、30%、27%となっている。ちなみに米国ではそれぞれ87%、67%、57%、49%となり、高度の教育になるほど女性割合が低いのは日米共通である。

ただし、どの学校でも米国のほうが日本よりも女性割合がはるかに高い。米国は大学教員でも半数は女性で、OECD平均も40%を超える。実は小・中・高・大学のすべてのレベルで、教員の女性割合はOECD諸国中で日本が最も低い。教育は女性が比較的活躍している分野であるが、他の諸国と比べると日本の活躍度は最低なのである。

同様のことは医師の女性割合にも言える。医師は女性が活躍する高度な専門分野だと思われているが、13年のOECD統計で日本の女性割合は20%とOECD諸国で最も低い。次に低い韓国の22%を除けば他の国はすべて30%以上で、この統計のある33力国の平均は45%と高い。さらに研究員の女性割合はOECD平均が30%台だが、日本はここでも14%と最低であり、次に低い17%の韓国と共に大幅な後れをとっている。

では専門職全体において日本は他のOECD諸国より男性中心なのか、というと全くそうではない。男女別に雇用者中の専門職者の割合を見ると、日本も他の国と同様に女性の割合が高い。一般にヒューマンサービス系といわれる、教育・養育、医療・保健、社会福祉の産業の専門職には女性が多い。しかし日本の場合、ヒューマンサービス系でも社会経済的地位の高い、大学教員、医師・歯科医師は女性割合が極めて低い。

筆者は専門職をヒューマンサービス系でかつ大学教員、医師・歯科医師以外の職を「夕イプ2型」、エンジニア、弁護士、会計士など非ヒューマンサービス系の専門職に大学教員、医師・歯科医師を加えたものを「タイプ1型」と名づけ、男女別に全雇用者中の専門職者の割合を日米で比較した(図参照)。

図:男女別専門職割合の日米比較
図:男女別専門職割合の日米比較
(出所)筆者作成

タイプ2型は日米ともに女性が20%前後で、男性が4%と少ない。問題はタイプ1型で、男性については日本が夕イプ2型の3倍弱、米国が4倍弱と大差はない。大差があるのは女性割合で、米国は13%だが、日本は2%にも満たない。日本女性の専門職は夕イプ2型に偏り、タイプ1型は極めて少ないのである。

さらに問題はこの違いが男女の賃金格差に強い影響を与えていることである。米国の場合、学歴・経験など人的資本の要因を制御しても、平均賃金は職業別で高い順に管理職、タイプ1型専門職、タイプ2型と続き、男女とも他の職より高い。日本のデータで同様の分析をすると管理職が最も高く、タイプ1型がそれに続くのは同じである。

しかしタイプ2型の賃金は男女で大きく異なり、男性なら他の職より平均賃金が高いが、女性のタイプ2型の専門職の平均賃金はブルーカラーを含む男性のどのような職種よりも低い。これらの専門職につく女性が日本の労働市場で極めて低い評価を受けている実態が浮かび上がる。

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働き方改革では同一労働同一賃金の実現が提唱されている。しかしそれ以前の問題として男女で同一の職業機会が与えられていないことがより根本的な問題である。管理職が少ないことに加え、女性の職は非正規雇用、一般職事務、そしてタイプ2型の専門職に大きく偏っている。

固定的な男女の役割分業に近い状態が労働市場にも存在し、その役割を超える女性の多様な潜在的才能は生かされることなく埋もれてしまう。この状況の抜本的改革なしには、今後学歴や勤続年数で男女が同等となろうとも女性の活躍は進展せず、日本の人材活用はこれまで同様いわば片翼飛行を続けることになる。

2018年2月20日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2018年3月5日掲載