女性の活用推進へ 企業の間接差別、法規制を

山口 一男
客員研究員

2030年までに政治や経済で指導的な地位に就く人の女性割合を30%にするという政府の計画にもかかわらず、女性活躍の進展は極めて遅い。管理職の女性割合は、経済協力開発機構(OECD)諸国の中では米国が43%と高く、欧州諸国の多くは30~40%なのに対して、日本は約10%と低い。本稿では日本でなぜ指導的地位につく女性の割合が低いのか考えてみたい。

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厚生労働省の企業アンケート調査によると、女性の管理職がいない・少ない「3大理由」とされるものがある。第1の理由が「現時点では、必要な知識や経験、判断力を有する女性がいない」というもので過半数の企業が挙げている。第2、第3は「将来管理職に就く可能性のある女性はいるが、現在管理職に就くための在職年数などを満たしている者はいない」「勤続年数が短く、管理職になるまでに退職する」というもので、共に勤続年数の短さを挙げている。企業から見れば「女性は経験不足だから」というわけだが、それは事実だろうか?

図1は経済産業研究所が09年に行った調査データの分析を最近筆者が「日本労働研究雑誌」(14年7月号)に発表したもので、ホワイトカラーの正規雇用者に限った結果である。勤続年数が同じでも、男女の管理職への昇進率は著しく異なる。女性正社員が31年以上その企業に勤めて達成できる課長以上割合(20%)を、男性正社員は11~15年目に達成している。また係長以上では、女性正社員が31年以上勤めて達成できる割合(50%)を、男性正社員は6~10年目に達成してしまう。

図1:管理職割合の勤続年別男女格差
図1:管理職割合の勤続年別男女格差

ただ、この分析は男女の教育差を考慮していないという批判があるだろう。かつて女性は短大卒が多く、大卒割合は男性よりはるかに低かった。その疑問に答えるのが図2である。

図2:課長割合の大卒・高卒別男女格差
図2:課長割合の大卒・高卒別男女格差

結果は驚くべきことに、高卒男性の方が、大卒女性よりはるかに課長以上割合が高い。社会学では生まれによる属性で社会的機会が定まるのが前近代社会、教育など達成の属性で定まるのを近代社会というが、わが国はこの点で近代社会とはいえない。

ちなみに米国で管理職になるには、大卒や経営学修士(MBA)など、学歴が性別によらず最も強く影響する。筆者の前記論文での分析では、日本で男女の教育・年齢・勤続年数の差で説明できる男女格差は係長以上割合では30%、課長以上割合ではわずか21%であった。

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男女格差を説明するほかの要因に、労働時間、特に通常週49時間以上働いているか否かがある。労働時間差をさらに説明要因に加えると、男女格差を説明できる度合いは係長以上割合で43%に、課長以上割合で39%へと大幅に増大する。また長時間働くほど管理職の割合が高まる関係は女性の方が男性より強い。

この事実と関連し、男女の管理職格差の原因について、加藤隆夫・米コルゲート大学教授と川口大司・一橋大学教授、大湾秀雄・東京大学教授の最近の企業内人事についてのパネル調査データ分析は、以下の2つの重要な事実を明らかにした。

1つは、長時間労働は男性の昇進率を高めないが、女性では昇進率に大きく影響するという事実である。これは長時間労働が女性にのみ管理職資格要件となっていることを示唆する。2つ目の発見は、高い人事考課結果が男性では昇進率を高めるのに、女性では高めないという事実である。これは、女性には人事考課の結果によらず昇進率の低い職に配置するという「間接差別」の結果と考えられる。

企業による配置を通じた女性への昇進差別は米国でも1970年代には多くみられたが、後述する間接差別への強い法規制もあり、現在はほとんどない。ただし職業選択の性差による男女の職業分離は米国でも残り、男女の賃金差の一因となっている。

筆者は女性の活躍についてワークライフバランス(WLB=仕事と生活の調和)の達成できる社会の重要性を訴えてきた。WLBの欠如のため女性の6割以上が結婚・育児を理由に離職し、正規雇用が新卒者優先のわが国で、彼女たちの再就職の大半はキャリアの進展性のない非正規雇用になる。また離職を理由に企業が女性を男性と同等に扱わない慣行が女性の継続就業意欲を奪い、結果として離職率を高めるという「予言の自己成就」ともなっている。

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今回、長時間労働が女性にのみ管理職登用への条件として重要視されるという、WLB達成と矛盾する企業慣行の存在も明らかになった。成果でなく長時間労働が主な基準なら、女性の管理職登用推進は難しい。WLB問題は「男性は家計に、女性は家事育児に主たる責任がある」という「家庭内の伝統的性別役割分業」が、働く女性に仕事と家庭の役割の二重負担を強いることが根本原因だが、日本の職場は特に女性管理職にその負担を強めている。

さらに、WLB問題とは別の大きな障害があることも明らかになった。それはいわば「組織内の伝統的な性別役割分業」ともいえるもので「男性はリーダー役に、女性は補佐役に適任」という固定観念である。

その意識によって、本来「個人の適材適所」を考えるべき人事判断に性別が大きくからむ。大多数の女性を一般職として管理職候補から外すコース制や、男性は管理職への昇進率の高いラインポジションに、女性は有能でも管理職率の低いスタッフポジションに配置というような慣行がはびこる。そして女性の管理職昇進や企業内の意思決定参加を阻んできたと考えられる。

その結果、女性は人事考課が優れていても昇進せず、高卒男性の方が大卒女性よりも管理職昇進率が高いという世界的にみて異常な状態を生み出してきたのだ。女性の活躍には、このような組織内の伝統的な性別役割分業の根本的見直しが必要であり、同時に、既に存在する様々な間接差別的制度を法的に禁止することが重要となる。

わが国は06年の雇用機会均等法の改正で間接差別について法制化したが、わが国も批准した女子差別撤廃条約や、米国や欧州連合(EU)の法制度と異なり、差別の意図がなくてもその効果において男女格差を生み出す機能を持つ制度を間接差別とはしていない。それどころか02年の最高裁事務総局の通達では「同期同給与年齢の男女間に8対2の昇格比率の差があった場合、非合理な差別が存在しているといえるか」という仮想質問に対して「男女職員間の全体的な昇格比率というものは、それだけで差別を根拠づけるものとは言えず」とお墨付きを与えている。

米国では、資格の同等な男女で女性の採用率や昇進率が男性の80%に満たない場合、企業の制度が格差を生んだと判断する「80%ルール」を確立し、その後、仮に80%以上でも統計的に有意な格差があれば同様に判断できる「有意ルール」という基準も採用している。ルール違反の場合、企業が正当な理由を提示できなければ、提訴された場合に損害賠償責任が生じる。

間接差別についてわが国の司法上の規定や通念は世界から逸脱している。女性活躍の推進のためには、企業の間接差別的慣行の自主的廃止とともに、法改正が強く望まれる。

2014年8月29日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2014年9月17日掲載