地域経済再生のために起業促進を
上野 透
上席研究員
昨年の日本産業を牽引してきた大手電機メーカーの不振のニュースはショッキングであり、地域での相次ぐ工場の撤退は企業誘致を進めてきた地方自治体を戸惑わせた。新興国の台頭で世界競争が激化し国内では人口減が進むなか、日本の企業は、独創的で高付加価値な製品やサービスの開発、効率的な生産・販売モデルの開発を進めないと、生き残れない時代となった。米国の急成長のベンチャー企業が世界市場を席巻しているが、新事業を創造し新たな雇用を生み出す起業は、経済発展のために特に重要となっている。
しかし、日本の起業活動の水準はGEM調査(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター:54カ国参加(2011年))では世界最低レベルであり、開業率は英米の半分以下で推移している。国内では、概して地方圏は大都市圏と比べ開業率が低く、ベンチャー企業は大都市圏、特に東京に多く集まっている。自律的な地域経済が求められるなか、それに寄与する起業を積極的に促進していく必要がある。
地方では、大都市と比べ経済活動や市場の規模が小さいなど起業に一定のハンディがあったが、最近のITの進展や国際化などの著しい環境変化のなかで、地域資源、安価な地価、強い絆など地方の特性を活用し新事業を創造すれば、起業のチャンスは広がってきている。例えば、鶴岡市の大学発ベンチャーで、世界最先端のメタボローム解析をする企業や強度と伸縮性のある人工のクモ糸開発をする企業は、地域を支える知的産業として期待されている。静岡市の子育て中の女性は抱っこひものネット販売を始め、現在は東京の直営店、全国百貨店でも販売する。山梨県北杜市のNPO法人は行政や企業等とも連携し農村資源を活用する多くの事業を展開している。公立であるが、秋田市に英語による少人数教育を特色として開学し難関校となった大学の取り組みも注目される。
安倍新政権が進める経済再生のためには、起業に対して、資金調達、ビジネスマッチング、知識サポートなど十分な支援が行われる必要がある。また、一方で欠かせないのは起業家教育である。GEM調査で日本は、起業家という職業の選択に対する評価は世界最下位であり、起業開始年齢も高い。米国ではアップル創業者のジョブズ氏は多くの子供たちの目標であり、起業家が高く評価される文化があるという。日本では特に、若年期からの積極的な起業家教育により、起業を身近に感じさせチャレンジ精神や創造力の醸成をさせることが必要である。
地方自治体においては、教育機関、企業、金融機関等と連携し地域一体となって起業を積極的に支援する必要がある。国の24年度補正予算案では地域ニーズを把握して起業をする女性や若者を支援するため200億円の補助金が計上されたが、このような施策も地域一体となったサポートにより効果的なものとなる。地域一体となった起業促進の取り組みは、既存事業者の意識改革や経営革新にもつながり、地域経済の再生に大きく寄与すると考えられる。
全国都道府県議会議長会「議長会報」(No.443 平成25年2月15日)に掲載
2013年2月15日掲載
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