世界最低レベルの起業活動水準
2013年に入り、新春早々から安倍内閣の新しい経済政策の展開が始まる。いわゆる六重苦による国内産業の空洞化の懸念を払拭し、日本経済を再生するためには、イノベーションによるブレークスルーが必要であるとの認識は、有識者で一致しているが、起業を通じたイノベーションは、新たな事業、産業の創造をし、多くの雇用を生み出すという観点から特に重要である(注1)。
しかし、日本における起業活動の水準は、世界最低レベルである。最近の開業率でみると、英米では開業率が10%程度であるのに対し、日本はその半分以下の3~5%程度で低迷し廃業率を下回っている(中小企業庁(2011))。国際的な起業活動調査である2011年GEM調査(Kelly他(2012))の起業活動率も5.2%で調査対象54カ国中下から5番目である。
「日本再生戦略」(2012.7.31閣議決定)では2020年までに開業率が廃業率を定常的に上回る目標をたて、起業の支援をすることとしたが、このような低調な起業活動状況を打破するため、新政権では日本経済再生本部などにより、より積極的に起業促進策を推進していく必要があると思われる。
起業家意識の醸成、起業家教育の必要性
上記GEM調査をみると、起業家という職業選択に対する評価は世界最下位で、起業家の社会的地位に対する評価は最近上昇傾向であるがいまだ世界最低レベルである。
米国の調査では、90%の親が子供が起業家になることに賛成し、71%の中高生がいつか起業したいと回答している(Timmons他(2007))。楽天の三木谷浩史氏は、米国留学中に自分の才覚で新しいビジネスを起こす人間を高く評価する価値観の違いにふれ起業を決意したというが(三木谷(2007))、米国では日本と比較にならないほどチャレンジ精神をもつ起業家が尊敬され、優秀な者が起業する文化が根付いていると思われる。
ルース駐日米国大使は、米アップル創業者のジョブズ氏は米国の子供たちの目標で、日本では起業家を賞賛することが起業の促進に必要だと述べている(Roos(2011)、日本経済新聞社(2012))。起業の促進のためには、資金調達など起業しやすい環境の整備が必要なのはいうまでもないが、大多数の者にとって起業が縁遠い日本では、特に、起業を職業の選択肢としてみられるように、若年期から起業に必要なチャレンジ精神や創造性などの醸成をする起業家教育を積極的に実施していくことが重要と思われる(注2)。
しかし、大学での起業家教育実施校は増加しているものの受講生は全大学生の0.8%と推定され(経済産業省委託調査(2011))、また、初等・中等教育ではキャリア教育は推進されているものの起業家教育は普及しておらず、起業家教育が不足していると思われる。キャリア教育には創造力の育成など起業に必要な要素も含まれているが、ゼロからビジネスをたちあげる創造性やチャレンジ精神の醸成をするには起業の概念を明確に位置づけ、初等教育から高等教育まで起業家教育を推進、強化していくことが必要である。
大都市中心の起業
地方においては、最近、大企業の工場の撤退のニュースが多く流れ、数年前まで企業誘致でしのぎを削ってきた地方自治体にも戸惑いが広がり、大企業の工場のみに頼らない自律的な地方経済の育成が求められている。地方こそ、その自律的経済に資する起業を積極的に促進していく必要があるといえよう。
しかるに、都道府県別の開業率をみると、大都市圏の開業率が高く、地方圏は全国平均を下回っているところが多い(注3)。開業率には、あらゆる業態の起業が入るが、ベンチャー企業の地域別の分布を、大学発ベンチャー企業および全企業の分布とあわせてみてみると(下表)、東京への集中の傾向がみられる。
また、起業家教育という面でも、大学学部で起業家教育を行っている大学を地域別にみると、東京をはじめ大都市圏への集中の傾向がみられる(上野(2009))。地方では、インターネットなどにより多くの情報は入手できるようになってきたが、大都市と比べると、活躍する起業家や新事業を肌で感じ、刺激を受けることが少ないなど、起業家意識を高める上で一定のハンディキャップを負っていることは否めない。
地域一体となった起業の推進
しかし、地方のさまざまな地域資源の価値を再発見し、この10年で飛躍的に発展したITを利用していけば、日本全国、そして市場拡大するアジアなど世界にビジネスを広げることができる時代となっている。
筆者は2回の地方経験をしたが、地方には大都市にはないような地縁によるつながりがあり、産学官連携をはじめ、地域の発展を願う強いエネルギーをもつ者が集まりやすい土壌がある。地元の経営者、金融機関、起業支援機関などから親身なアドバイスを受けたり、地元商店街での空き店舗での販売体験など、地域一体となった起業家教育を行っていくこともできる。
米国では、町の産業と学校の教育現場は非常に近く、産学共同が小学校のレベルから当たり前のものとなっているという(注4)。新政権の、地方に配慮した、起業家教育を含めた起業促進策の推進とともに、このような地方の強みを生かした地域一体となった起業推進の取り組みが、地域再生、そして日本経済再生の鍵と思われる。