新春特別コラム:2014年の日本経済を読む

2014年は休んで観光~「おもてなし」の生産性向上

上野 透
上席研究員

日本人国内旅行の増加を

昨年末、外国人旅行者が初めて年間1000万人を突破し、昨年6月に閣議決定された日本再興戦略で掲げる第一目標を達成した。オリンピックの実施も追い風となるが、今後、日本再興戦略での2030年に3000万人超の目標、そして観光立国日本の実現のためには、観光をめぐる環境整備を行い、受け入れる観光産業も設備投資も活発に行って発展していく必要がある。

しかし、訪日外国人旅行者は宿泊者数の6%(2012年、観光庁(2013a))にとどまり、訪問地域は東京をはじめ一部の都道府県に集中している(注1)。一方、日本人の国内宿泊観光旅行をみると低迷を脱しきれていない(注2)。外国人旅行者のアクセスに時間のかかる地域を訪問する制約なども考慮すると、観光立国実現のためには、日本人の国内旅行も増加させ、観光産業の発展基盤を築いていく必要がある。

「おもてなし」の生産性の向上

海外に駐在したり、旅行したりすると、日本のサービスの質の高さは世界一と感じる人も多いのではないか。予定時間通り来て丁寧に応対する宅配や修理業者、24時間営業の何でも揃うコンビニなどは日本が誇る質の高いサービスである。報道される外国人旅行者のコメントでも日本の丁寧な接客などを賞賛するコメントが多く見られる。「おもてなし」はまさに日本の誇れるものといっていいだろう。

しかし、日本のサービス業全体の生産性は欧米と比べて低く、特に飲食・宿泊は全要素生産性(TFP)が対米比で51.0%(2009年)と低い(経済産業省(2013))(注3)。観光産業での「おもてなし」に磨きをかけビジネスとして継続して提供をしていくためには、観光産業の生産性の向上を図っていくことが必要不可欠である。

生産性向上のためには、需要面、供給面さまざまな取り組みが必要であるが、観光産業においては、年末年始、ゴールデンウィーク等の繁忙期と閑散期の需要の平準化、すなわち、閑散期にいかに旅行者を増加させるかが需要面の大きな課題と思われる。

需要の平準化~有給休暇取得を世界標準に

世論調査(内閣府(2013))では今後の生活の力点を「レジャー・余暇生活」とする人が最も多く、レジャー白書で余暇活動の潜在需要(参加希望率-参加率)をみると、上位から、海外旅行(33.7%)、国内観光旅行(19.6%)、クルージング(16.0%)となっている(日本生産性本部(2013))。これらをみると、国内外の旅行に大きな潜在需要があり、休暇取得の増加に伴って閑散期の需要も増大していくと思われる。

しかるに、日本人の年次有給休暇取得率は1993年の56.1%をピークに減少し、この数年増加傾向がみえたものの、2012年は47.1%(前年49.3%)と低下した。特に、宿泊業・飲食サービス業の取得率は29.8%と低い(厚生労働省(2013)、日本生産性本部(2013))(注4)。世界的にみても日本の取得率は格段に低く、英仏独はほぼ100%、米は70~80%である(観光庁(2010))。世界最大級のオンライン予約サイトExpediaの国際比較調査でも日本はワースト1位である(注5)。

政府では2020年に70%という目標が立てられ(注6)、関係省庁でポジティブ・オフ(休暇を前向きに捉える)運動なども行われているが、現状ではその数値の達成は困難である。日本再興戦略では、その成果の果実として最終的には「国民一人ひとりが豊かさを実感」できるようにならなければならないとしているが、アベノミクスの効果がでてきている今こそ、賃金アップに加え、その成果を有給休暇という形で国民に還元していくときと思われる。

有給休暇の取得促進のためには、社会全体の意識改革、組織全体としての計画的、効率的な業務管理が必要となってくるが、これは仕事と子育てを両立できる環境の整備にも共通するところがあり、女性の活躍を柱と据えている日本再興戦略の実現を後押しするものである。また、有給休暇取得の増加により、大きな経済波及効果、雇用創出効果が期待でき(注7)、休暇により心身ともにリフレッシュし仕事に臨めるプラス効果も期待できる(注8)。

私が駐在したフランスでは、2~3月に学校の冬休み、いわゆるスキー休みが2週間あり(全国を3つのゾーンにわけ時期を分散)、職場では休暇をとりアルプスのスキーリゾートに家族で出かけることが年中行事となる雰囲気があった。観光庁で数年前に検討された休暇分散化の議論は中断されてしまったが、有給休暇取得増加のための方策の検討が積極的にすすめられることが期待される。

観光産業の努力~ITの活用、ニーズを捉える

潜在需要を顕在化させ、生産性を向上させるためには、供給側の観光産業側の取り組みが重要なのはいうまでもないが、設備投資、集客等経営のアドバイスを受けていない旅館は半数以上にのぼるなど(観光庁(2013b))、まだ努力の余地は大きいと思われる。

日本のITを導入する側の産業では米国に比べるとIT化は相当遅れており(注9)、生産性の向上のためITの積極的活用は喫緊の課題である。なお、ウェブサイトなどによる情報提供がますます重要度を増しているが、氾濫する情報のなかでユーザーが的確に判断できるように、宿泊施設等の客観的情報の提供制度が期待される。

多様で変化する客のニーズを把握、分析し、必要なサービスを効率的に提供していくことが最も重要である。サービス提供側が、他地域の事例をみて、あるいは客の立場を経験するなど、視野を広く持ち、ビジネスを進化させていく姿勢が必要である。北海道のニセコではオーストラリア人が夏季のアトラクションにラフティングを導入して通年リゾートに変えた。長野の地獄谷野猿公苑は雪の中で猿が温泉に入ることが世界的に珍しく、世界最大級の旅行口コミサイト・トリップアドバイザー「外国人に人気のある日本の観光スポット2012」で5位に選ばれた(4位は宮島、6位は兼六園)(注10)。個人的にはペット同伴可のホテルがもっとあればいいと思っているが、国内外に潜む潜在的なニーズはまだまだあると思われ、それを積極的に捉えていくことが必要である。

2014年1月9日
脚注
  1. ^ 2012年では、宿泊者数全体では東京、北海道、大阪の上位3都道府県で全体の1/4を占めているが、外国人の宿泊者数では東京、大阪、京都、北海道、千葉に特に集中し上位3都道府県で半分以上を占める。外国人宿泊比率をみると、東京、京都、大阪で10%台となる一方、2%以下の都道府県が半数以上である(観光庁(2013a))。外国人旅行者の地理的集中を分析したものとしてTanaka(2013)がある。
  2. ^ 日本人の国内宿泊観光旅行の一人当たりの宿泊数は、2006年の2.74泊から減少気味で、2012年は前年(2.08泊)より増加したが2.24泊(暫定値)となっている(観光庁(2013b)。
  3. ^ 本数字には、サービスの質の差異が十分反映されていないおそれがあり、結果はやや幅をもってみる必要がある。
  4. ^ 調査対象期間は表記の年又は前年会計年度。
  5. ^ 24カ国の有識者男女を対象に有給休暇消化率を調査(2013年8~9月)。
    http://www.expedia.co.jp/p/corporate/holiday-deprivation2013
  6. ^ 「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(平成22年6月 仕事と生活の調和推進官民トップ会議)
  7. ^ 有給休暇を完全取得すると、経済波及効果16兆円(わが国GDPの約3%に相当)、雇用創出効果188万人という経済効果の試算がある(観光地域経営フォーラム(2009))
  8. ^ 前記のExpediaの調査では、有休休暇取得率のワースト1位、2位の日本と韓国が、仕事の満足度もワースト1位、2位である。
  9. ^ 実質IT資産の対付加価値比率をみると1990年代半ばまでは日米で差はなかったが、その後米国がIT資産を急速に拡大し日米の差が開いている(2006年で米が33.8%、日本が16.3%)(経済産業省(2013))。
  10. ^ http://www.tripadvisor.jp/pages/HotSpotJapan_2012.html
文献
  • Tanaka Ayumu (2013) "Geographic Concentration of Foreign Visitors to Japan" RIETI Discussion Paper, 13-E-008.
  • 観光地域経営フォーラム(2009)『観光地域経営フォーラム・休暇改革推進部会報告書』
  • 観光庁(2010) 休暇分散化ワーキングチーム第2回参考資料
  • 観光庁(2013a)『宿泊旅行統計調査報告(平成24年1~12月)平成25年6月』
  • 観光庁(2013b)『平成25年版観光白書』
  • 厚生労働省(2013)『平成25年就労条件総合調査』
  • 経済産業省(2013)『2013通商白書』
  • 内閣府(2013)『国民生活に関する世論調査』平成25年6月調査
  • 日本生産性本部(2013) 『2013レジャー白書』

2014年1月9日掲載

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