世界の視点から

3・11後の復興の鍵を握るイノベーションと起業家精神

John V. ROOS
駐日米国大使

東日本大震災が発生した今年3月以降、日本国民はこの歴史的大災害から立ち上がる力と決意を見せてきた。国や地方自治体、非政府組織、民間部門の素晴らしい活動で、被災者の生活は大きく改善した。今は経済再生の兆しも見えるが、東北地方、さらには日本全体に未来の繁栄を約束するような形での再生を促すには、やるべき仕事がまだ多く残っている。これまで何度も述べたように、私は日本が今回の危機から立ち上がり、以前より強くなると確信しており、それを確実に実行する1つの手段が東北と日本全国でのイノベーションと起業の促進であると考える。

運命の3月11日以前も日本の景気回復は遅れていたが、震災は既存の問題を悪化させ、新たな課題も生み出した。しかし震災の前後で核心的な問題――いかにして持続可能な成長と包括的繁栄を確保するか――は変わっていない。過去に困難に直面した時、日本と米国はいずれも、市場に技術をもたらす新たな企業の設立を奨励することで経済を再活性化させてきた。そのうち何社かは全く新しい産業部門を主導する企業に成長している。私はこれまで仕事をする中で、雇用の創出と社会資本の拡大という点で新興企業にいかに大きな可能性があるかをこの目で見てきた。

私はこのような起業を通じたイノベーションが、将来の成長と繁栄の鍵になると考える。日本各地を訪問した際、私が多くの方から受けた質問は、起業を促すために日本は何をすべきかというものだった。簡単な答えはないが、過去20年間に多くの国が指針として役立つと認めた基本原則がある。そのうちいくつかをここで紹介したい。

起業家を称賛する

第一に、新たに企業を設立する勇気を持つ起業家の努力を尊重する。成功を称賛することはもちろん大切だが、失敗に終わった時もその努力をたたえることが極めて重要である。なぜなら失敗から学ぶこともあり、失敗すればそれで終わりというわけではないからだ。社会、産業界、政府の最高レベルの指導層が起業家精神を高く評価すると明言すれば、人々は耳を傾け、それに応えると私は考える。成功しているベンチャー企業を政府が臆することなく国内外で称賛すれば、日本が通常通りの生活を送っており、新規企業も広く受け入れていると示すことになるだろう。

産業界に働きかける

政府の政策の成否が民間部門での動向によって決まる場合には、主なプレーヤーを政策論議に参加させる必要がある。当然のことながら、ベンチャー企業に優しいエコシステムがうまく機能するには産業界の関与が不可欠であり、従って産業界は当初から議論で重要な役割を果たす必要がある。つまり起業家に働きかけるということである。さらに大企業の参加も意味する。なぜなら大企業は潜在的な顧客、投資家、才能ある人材の供給源、将来の事業提携のパートナーとして、新興企業にとって極めて重要だからである。もうひとつ可能な方法として、日本国内外の専門家からの助言の活用がある。たとえば研究所や大学で新たな技術を開発し、高成長の企業を創設するにはどうすれば良いかという問題などについて助言を得る。

世界を目指す

政府と産業界の指導者たちはいずれも、世界中の投資家、顧客、パートナーとの結びつきを強化した方がいい。21世紀のグローバル化した経済において新興企業が成功するには、国際的なネットワークとのつながりが極めて重要である。外国人投資家を引き付け、外国の証券取引市場への上場を促進する企業統治の仕組みを用いることで、新規企業は大部分がまだ未開発の人材や資金にアクセスできる。さらに新しい市場を理解するための貴重な資産および資源として、外国人および社外取締役の役割に期待することもできる。

数十年にわたるシリコンバレーでの経験を通じ、私は政府および産業界が協力し、起業を通じたイノベーションを奨励する政策の枠組みをつくるのを見てきた。私は日本の指導者が現在の課題を克服し、この国を新たな繁栄の時代に導くと確信している。将来的には、日米が力を合わせ、新たな「太平洋の世紀」という未知の海の海図を作ると期待している。

本コラムの原文(英語:2011年12月1日掲載)を読む

2011年12月1日掲載

2011年12月1日掲載

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