心身を癒すヘルスツーリズムの可能性~温泉の活用を例に~

関口 陽一
上席研究員

1. 成長が期待されるヘルスツーリズム

心身のリフレッシュを目的に旅行したいと考える人は少なくない。公益財団法人日本交通公社(2020)によると、「国内宿泊旅行、海外宿泊旅行をしてみたいと思う動機」(複数回答)として「日常生活から解放されるため」を挙げた回答は62.1%で、「旅先のおいしいものを求めて」(64.7%)の次に多かった。

日本には、病気や怪我を治す療養だけでなく、心身の疲れをとり健康増進を図る保養も兼ねて温泉地に滞在する湯治の文化がある。しかし、現在、働いている人の多くが江戸時代のように3~4週間の連続休暇を取得して湯治を行うのは難しい。そこで、週末に日帰りでも1泊2日でも短期間の湯治を繰り返して効果を得る現代湯治や、温泉地周辺の地域資源を楽しみながら温泉地に滞在して心身ともにリフレッシュする新・湯治が提唱されている。

温泉地に限らず自然豊かな地域を訪れ、自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒し、健康を回復・増進・保持するヘルスツーリズムも推進されている。健康志向の高まり、地域資源を活用した地域活性化施策としての取り組み増加を背景に、2019年に約2兆8,600億円だったヘルスツーリズムの市場規模は、2025年に約3兆6,700億円、2030年には約4兆5,200億円に成長すると推計されている(図1参照)。

図1 ヘルスツーリズムの市場規模推計(単位:兆円)
図1 ヘルスツーリズムの市場規模推計(単位:兆円)
出典:PwCコンサルティング合同会社(2021)より作成

本稿では、コロナ禍でストレスを抱える人々の心身を癒し、さらなる成長が期待されるヘルスツーリズムの可能性について、重要な資源の一つである温泉を例に考察する。

一般財団法人北海道東北地域経済総合研究所 『NETT』第114号(2021 Autumn)に掲載

2021年10月7日掲載

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