経済を見る眼 医療崩壊の回避へ、政府は何をすべきか

佐藤 主光
ファカルティフェロー

新型コロナウイルスの「第3波」が来た。入院・療養中のコロナ患者数は全国で1万8388人、うち重症者数は376人に上る(11月25日時点)。東京の1日の新規感染者数は11月下旬に3日連続で500人を超え、その後も400人台で推移。大阪では政府分科会が示す基準で最悪の「爆発的感染拡大」の状況に迫った。

こうした中、医療崩壊の懸念が出てきた。現在、全国の新型コロナ対応ベッド数2.7万床の使用率は約22%(11月18日時点)にとどまるものの、地域差は大きい。大阪が4割超、北海道や東京、愛知などで3割を超えている。

大阪府によると、確保のメドがついた重症者用病床ではすでに使用率が5割を上回り(11月25日時点)、府は新たな病床確保を急いでいる。東京の場合、都内の医療機関が確保しているコロナ病床は2600床余り。今年10月の予定だった新型コロナ専用病院の開設は12月にずれ込んでいる。

病床が準備されても、医師・看護師などのスタッフを簡単に増やせるわけではない。日本医師会によれば、病床使用率に関して「現場感覚とは著しいずれがある」という。実際、医療の現湯からは「ベッドがあっても対応するマンバワーの問題で、いっぱいまでは受け入れられない」との意見もある。また報道によると、名古屋市内の病院で確保した約300床のコロナ専用病床のうち、半数近くは医師や看護師を確保できず、 すぐに使用可能な状況にはなっていない(11月20日時点)。前述の新型コロナ専用病院にしても医療スタッフのやり繰りが難しいという。

コロナ第3波を乗り切るには、病床や医療機器だけでなく人員の確保も必須といえる。患者を受け入れる医療機関のスタッフだけで対応するのでは、マンパワーが足りないだけでなく彼らが精神的にも肉体的にも疲弊してしまう。

重要なのは、コロナ非対応の医療機関からコロナ対応の医療機関へ、迅速かつ柔軟に医師・看護師などを派遣する体制を整備することだ。そのためには、政府は派逍に伴う医療スタッフや医療機関への補償など、医療界への「誘因づけ」を強化する必要がある。

具体的には、これまで医療従事者の派遣や個人防護具などの経費を補助してきた「緊急包括支援交付金」の活用を拡充し、医療スタッフに派遣前と同じ報酬(派造先で支払われる給与との差額)を保証する一方、派遣元の医療機関に対してスタッフの派遣に伴う収入損失(一部の診療行為の停止による診療報酬減など)を補填する。

また、派遣元の医療機関における人員の配置要件も緩和する。現在、入院病棟への診療報酬は患者7人に対して看護師1人といった配置度合いに応じて決まっている。このため看護師をほかの医療機関へ派遣すると基準が満たされず、診療報酬が減額されかねない。派遣の障害になる要件は見直し、特例を認めるのが望ましい。

人のやり繰りが進めば、わが国のコロナ流行に対する耐久力は高まる。感染症との共存を当面強いられる中、「経済と健康を両立する」ために医療現楊への支援強化は必須である。

『週刊東洋経済』2020年12月12日号に掲載

2021年2月5日掲載

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