「保八」を下方修正した中国
大改革の始まりとなるか
~世界経済減速は引き下げの小さな要因にすぎない~

中島 厚志
理事長

3月に開催された中国の第11期全人代(全国人民代表大会)第5回会議で、温家宝首相は今年の政府の実質GDP成長率目標を7.5%とし、いままでの8%成長目標を8年ぶりに下方修正した。

従来から中国の経済成長率は政府目標を上回っており、今年の経済成長率も7.5%の目標以上を達成する可能性は強い。しかし、世界第二の経済大国になったとはいえ1人当たりの所得がまだ低い中国で、国の指針となる政府目標が引き下げられる意味は重い。

世界経済減速は目標引き下げの主因ではない

今回の目標引き下げについては、世界経済の減速が原因とする見方がある。確かに深刻な欧州での政府債務問題などで、IMFは2012年の世界経済成長率を、1980年~2010年の年平均成長率3.5%を下回る3.3%と見てもいる。

実際、中国の輸出の伸びは先進国向けがとりわけ欧州中心に鈍化している。欧州は米国を抜いて中国第一の輸出先となっていることから、その鈍化が中国の経済や輸出産業にもたらす影響は無視できない。

また、原油価格が高水準となっていることから、中国が過度の高成長を追求すればインフレが高まりかねないこともある。なお多くいる低所得層の所得を今後とも向上させていかなければならない中国にとって、成長抑制をもたらす金融引締政策を採らざるを得ないスタグフレーション的な経済状況に陥ることは避けなければならない。

しかし、リーマン・ショック後の世界経済の落ち込みの中でも、中国政府の成長率目標は引き下げられてこなかった。このことは、政府の成長率目標が中国を取り巻く国際的な経済環境だけで決められているのではないことを示しており、足元の世界経済減速だけを引き下げの原因とみることはできない。

全文は「WEDGE Infinity」にて。

2012年3月23日 WEDGE Infinityに掲載

2012年7月10日掲載