近づくAI生活革命

中島 厚志
コンサルティングフェロー

市場では、人工知能(AI)バブル崩壊の懸念が根強い。一方で、生成AIは当初の文章生成・対話応答から業務自動化へと用途を広げ、その進展ぶりは日々加速しているといっても過言ではない。

こうした急速なAI進歩の背景には、2010年前後まで伸びが鈍化していた主要国の知的財産投資が、その後増加基調へと転じたことがある。一つの契機は10年代前半に登場し、第4次産業革命の起点となったディープラーニング技術であり、現在の生成AIはその延長線上に位置づけることができる。

産業革命は世界経済を長期間押し上げたが、それは新技術が生活革命をもたらしたからである。自動車や家電の普及、通信技術の発達による家事負担の軽減や生活の快適性、余暇の充実などは人々の暮らしを劇的に変えてきた。

今回の産業革命でも、AIは家事や買い物の自動化、家計の自動管理、さらには家庭医や家庭教師のような役割まで担う可能性を持ち、多様な分野で大きな生活革命をもたらすことが想定されよう。

しかも、その実現が迫っている可能性もある。それは、技術革新が生活革命に至る時間が産業革命ごとに短縮していることからもうかがえる。

その期間は、第1次産業革命では蒸気機関から鉄道整備まで約五十年、第2次では電力普及まで約三十年、戦後の第3次では家電や自家用車、PC普及まで二十年余と短期化している。現在、ディープラーニング登場からすでに10年あまりが経過し、生成AIの進歩は速い。過去の例も踏まえれば、あと数年で生活革命が実現するとの見立ても十分成り立とう。

AIバブル崩壊への警戒は残る。しかし、AIがもたらす生活革命がすでに視野に入りつつあることも、同時に強く意識する必要がある。

2025年12月4日 日本経済新聞(夕刊)「十字路」に掲載

2025年12月11日掲載

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