混迷する貿易秩序―同志国束ね 中国に対峙

宗像 直子
コンサルティングフェロー

米国の変化はトランプ大統領個人だけでは説明できない。対中経済関係を通商にとどまらず、安全保障や産業基盤の問題として捉える転換は、第1次トランプ政権で明確になった。政策手法は違えどバイデン政権と第2次トランプ政権の対中懸念の根底は共通している。

5月の米中首脳会談のように一時的な安定を図る動きがあっても、先端技術や産業基盤をめぐる構造的な覇権争いは続く。「トランプ後」に米国がかつての自由貿易推進に戻るとは考えにくい。

中国の低コストな製品が雇用を揺さぶった第1のチャイナ・ショック、技術の高度化と産業補助金による第2のショックを経て、現在は「チャイナ・ショック3.0」の段階に入った。中国が川上の資源、川中の部品・製造能力、川下の巨大市場を一体化し、その規模を他国への構造的な影響力に転換している。

電気自動車(EV)はその典型だ。巨大な市場がモーターやパワー半導体、電池、ソフトウエア、人工知能(AI)を育てている。

EVの部品・技術はドローンやロボットにも生かされ、利用データが制御技術を改善する。民生市場の規模が軍民両用(デュアルユース)の能力につながっている。競争の単位は個別の製品や企業から、産業エコシステム全体へと移っているのが実情だ。

中国のこの構造は他国の産業が育つ余地を狭めている。中国の競争力が圧倒的になった分野で中国以外の国の企業が代替供給力を育てようとしても、投資回収の見通しは立ちにくい。

重要なのは中国との取引を一律に縮小することではない。特定国へ過度な依存をせず、政府や企業の意思決定がゆがめられない状態をつくることだ。供給停止や市場アクセスの制限を恐れ、本来取るべき政策や経営判断を変えざるを得ないのであれば実質的な選択の自由は失われる。

自由貿易体制の再構築とは経済的な威圧によって選択を奪われない基盤をつくり、自由で開かれた経済秩序を守ることだ。強靱(きょうじん)性がなければ依存関係が武器化され、自由で開かれた取引は維持できない。

世界貿易機関(WTO)の多角的ルールは開放的な経済秩序の土台だが、全加盟国の合意を要するため、国家補助金や経済的威圧、供給網の集中に対応する合意を結ぶことは難しい。重要物資や先端技術では同志国間で補完的な枠組みを築く必要がある。

研究開発や政府調達、投資支援などを組み合わせ、中国の価格攻勢に遭っても企業が投資回収できる規模の市場を同志国でつくらなければならない。通商政策は代替供給力を育てる産業政策と不可分になっている。重要鉱物では備蓄や共同購入を通じ、同志国が需要を束ねる必要もある。

各国が個別に対応していては中国の規模に対抗はできない。欧米、インド太平洋、その他有志国を結ぶ連携が不可欠になる。日本には新たなルールづくりを主導し、各国の需要や政策をつなぐ調整役が期待される。

(聞き手は広沢まゆみ)

2026年7月27日 日本経済新聞「複眼」に掲載

2026年7月30日掲載

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