中心市街地のにぎわいをどうやって取り戻すか

元橋 一之
ファカルティフェロー

中心市街地活性化には、人の流れを呼び込むことが必須の取組みであるといえる中、「まちづくり三法」が企図するコンパクトシティが人の流れを呼び込み、中心市街地活性化において一定の効果を上げている。コンパクトシティは中心市街地活性化に本当に有効か、様々なデータを基に検証した。

1 「まちづくり三法」の改正

地方都市における商店街の衰退が続いている。県庁所在地の駅前商店街においても人影がまばらで、シャッターを下ろしたままの店が並ぶ「シャッター通り」が見られる。中心市街地の空洞化が進む一方で、郊外においては、幹線通り沿いに大型専門店やレストランが並び客足は郊外に向いている。このような大型商業施設の郊外展開にはいくつかの要因が考えられる。1つはモータリゼーションの進展とライフスタイルの変化である。核家族化が進む中で日々の買い物を近くの商店で行うのではなく、週末にまとめ買いする人が増えた。その場合、駐車場が整備された郊外のショッピングモールや大型店の利便性は高い。また、大型商業店舗の出店に関する規制も影響していると考えられる。90年代半ばまで「大規模小売店舗調整法」(大店法)によって大型小売店の出店規制が行われてきた。しかし、大店法は日本における外国企業の構造的な参入障壁であるという指摘を米国から受け、90年代を通じて大店法の規制緩和が行われてきた。1998年には大店法は廃止されることになるが、この過程において郊外における大規模商業施設の建設が進んだ。

人口密度が低い地方都市における都市機能の拡大は行政コストの増大につながる。上下水道や道路などインフラの整備や豪雪地帯においては除雪のための費用が膨らみ、自治体の財政を圧迫することとなる。都市機能を中心部に集中させたコンパクトシティの構築と中心市街地の活性化は多くの市町村において差し迫った課題となっている。また、地方都市の特性を活かした中心市街地の形成や街中のにぎわいは、地方都市のアイデンティティを保持するという意味でも重要である。

このような問題意識から、1998年に「まちづくり三法」(中心市街地活性化法、大規模小売店舗立地法及び都市計画法の改正法)が制定され、2000年に大店法は廃止された。それまでの大店法における「大規模店VS小規模店」という視点から「中心市街地VS郊外」という立地ベースの議論に基づき、政策の再構築が行われた。また、この通常国会で中心市街地活性化法と都市計画法の改正が再度行われ、郊外における大規模店舗立地規制が強化された。このような国レベルの政策フレームワークに基づいて、市町村においては様々な取り組みが行われている。青森市や富山市における取り組みが先端的事例として紹介されることが多いが、その中心となるのはやはり大規模小売店の中心市街地への誘致や、図書館など公共施設の戦略的な配置である。街中に人の流れを作り、それが周辺の商店街の活性化にもつながることが期待されている。

筆者は経済産業研究所における松浦寿幸研究員と協働でこれらの中心市街地活性化対策の定量的評価分析を行った。ここでは全国レベルの大規模データベースを用いて、コンパクトシティ形成に関する国レベルの政策の評価を行い、地域ごとの具体的な取り組みに対して、いくつかの重要なインプリケーションを導き出している。本稿においては、我々の研究成果を紹介するとともに、地方都市の中心市街地ににぎわいを取り戻すために、国レベル、自治体レベル、商店街レベルでそれぞれどのような取り組みを行っていくことが必要か述べたい。

2 中心市街地衰退の状況

大規模小売店舗や中小商店などの店舗属性やそれらの立地属性については商業統計調査(経済産業省)によって詳細な分析が可能である。日本経済は90 年代前半のバブル崩壊によって長期的な停滞局面に入った。個人消費が伸びないことによって、小売業全体の売上の伸び率も停滞した。小売店の数は減少を続け、1991年の159万件から02年の130万件とここ10年間で29万件減少している。その中でも特に小規模零細店の減少幅が大きくなっている。図表1は、中心市街地とそれ以外の地域に分けて、小売店の業態別に事業所数の1997年から2002年までの変化率をみたものである。また、中心市街地とその他地域の状況を東京・名古屋・京都・大阪・神戸の三大都市圏、その他の都市圏及び地方圏に分けて示している。

まず、全体的な動向としては大規模店が増える一方で中小小売店の減少が見られる。全体的な小売店舗の減少は平均的な店舗規模の拡大によってもたらされていることが分かる。ただし、規模の小さい小売店全ての数が減少しているわけではなく、コンビニエンスストアの数は増加している。中心市街地とその他の地域に分けてみると、両者とも中小小売店の減少が見られるが、大規模店の動向に違いが見られる。中心市街地では大規模店IIに増加がみられるが、大規模店Iについては大きく変化していない。一方で、その他の地域においては大規模店Iについても増加が見られる。大規模店IIは面積1500平米以下であり中規模のスーパーマーケットなども含まれる。一方で、数千平米の大規模スーパーや数万平米単位のショッピングセンターは大規模店Iに分類される。このように大規模な商業施設の立地はその他の地域においては活発であるが、中心市街地では進んでいない。一方で中小小売店の撤退は中心市街地、その他の地域両者において進んでいる。

これを都市圏か地方圏の分類で見ると地方圏において中小小売店の減少幅が大きくなっている。また、地方圏の中心市街地では、大規模店Iの店舗数も減少している。その一方で地方圏においてはその他の地域における大規模店Iの著しい増加が見られる。このように商業施設の郊外移転と中心市街地における中小小売店の疲弊は都市圏と比べて地方圏において特に顕著に見られる現象ということができる。ここでの都市圏と地方圏の分類は主に人口密度によって行われているが、人口密度の低い地域ほど大規模店も中心市街地から郊外に移転する動きが見られ、それとともに中小小売店の撤退数が多くなっているということである。

3 街の「にぎわい」の定量的評価

このような中小小売店の減少は、大店法の規制緩和が進むことによって小売店間の競争が激化したことによるものとも考えられる。1997年から2002年までの間、事業所レベルの参入・退出の状況を見ると、多くの小売店が市場から退出したが、その一方で新規事業所の参入も見られている。生産性の高い小売店が参入する一方で、生産性の低い事業所が退出し、生産性向上が見られる。しかし、地域的に見るとロードサイド店など郊外において新規店舗が見られる一方で、市街地の中小小売店が退出し、中心市街地が空洞化する現象が起きている。これは大店法による規制緩和と関係があるのだろうか? まちづくり三法が目指している都市機能の中心市街地への集中化といったコンパクトシティの考え方は、地方都市において中心市街地活性化対策として有効なのであろうか?

これらの問いに答えるために筆者らは商業統計調査や事業所統計など各種統計を組み合わせたメッシュデータを用いて街の「にぎわい」に関する定量的な分析を行った。商業統計の事業所レベルの売上高を第3次区画(1キロメートル四方の区画)のメッシュレベルに集計して、この1キロメートル四方の空間が、一般的に駐車場をもたない中小小売店の商圏と考えた。また、中心市街地の「にぎわい」を示す指標としては、コンビニエンスストアを除く「中小小売店」の売上高を用いることとした。街の「にぎわい」の直接的な指標として、人の交通量を計測することも考えられるが、全国レベルで利用できるデータは存在しない。また、通勤・通学などの当該地域を通過するだけの人通りは街の「にぎわい」というには不適当である。やはり、ある程度時間的に余裕があり、ショッピングや街の景観を楽しむ人がどれだけ集まるかが重要であろう。そこで、ここでは中小小売店のメッシュレベルの売上高を用いることにした。

この「にぎわい」に関する影響を与える要因として重要なのは、まず同じメッシュにおける大規模店の有無である。「大店法」においては、大規模店の参入が近隣の中小小売店の売上に悪影響を与えるという発想が原点にあり、大型店と中小小売店の売上は代替的な関係にあるという前提があった。逆に「まちづくり三法」においては、むしろ大型商業施設を中心市街地に呼び戻すことによって客足の流れを街の中心部に作り、商店街の振興を図るという考えに基づいている。このどちらの仮説が正しいのか、また大規模店と中小小売店の関係は都市圏や地方圏などの属性によってどのような影響を受けるのかといった点について検証することは重要である。また、コンパクトシティの考え方において、図書館や病院などの公共施設を市の中心に集め、人通りを中心市街地に呼び戻すという対策も重要視されている。したがって、これらの公共施設の立地が街の「にぎわい」と有意な関係にあるのかどうかについても検討を行った。

具体的には、1キロ四方のメッシュレベルで、中小小売店の売上高の伸び率(1997年から2002年まで)について以下の各グループの比較を行った。大規模店の動態については、(1)1997年時点における大規模店の有無、(2)1997年から2002年の間に大規模店参入(1997年時点で大規模店無し)、(3)1997年から2002年の間に大規模店増加、(4)1997年から2002年の間に大規模店撤退(2002年時点で大規模店無し)、(5)1997年から2002年の間に大規模店減少、それぞれについてチェックを行った。また、公共施設については、病院や市庁などの公共施設の立地・撤退の影響を見た。具体的には(1)1997年と2002年の両時点とも病院・公務事業所なし、(2)病院・公務事業所数増加、(3)病院・公務事業所数減少、の3つのグループを比較した。その他の説明変数としては、地域属性を示す変数として、高齢者比率、昼間人口、市区町村別乗用車保有比率などを加えて回帰分析を行った。その結果を簡単にまとめたものが図表2である。

4 「にぎわい」に必要な大型商業施設

図表2においては、大規模店について売り場面積1500平米以上と未満の2種類に分け、対象地域について都市圏と地方圏に分割してそれぞれについて回帰モデルの推計を行った。また、中小小売店の売上については全店舗における変化率と1997年時点で存在していた既存店のみの変化率の両方について分析結果を示した。大型ショッピングモールが建設される場合、SC内に設置された中小小売店の売上は、ここで計測しようとしている周囲への影響とは異なる。既存店のみの販売変化率に関する分析はこのような影響を排除するために行った。

結果については、まず大規模店参入・退出の影響を見る。全店舗の中小小売店の販売額変化率でみると、都市圏でも地方圏でも大規模店の参入・退出の係数は概ね有意であり、大規模店の参入・退出が中小小売店に大きな影響を及ぼしていることが分かる。ただし、大規模小売店舗内のテナントとして中小小売店が参入する効果を排除した既存店に限定する分析結果をみると、ほとんどのケースで大規模店の参入・退出効果が見られなくなった。なお、地方圏においては、大規模店退出の効果が若干ではあるがプラスに出ており、大規模店の退出により既存店に顧客が戻ってくる効果があることを示唆しているのかもしれない。

次に、公共施設の影響についてであるが、都市圏では、全店舗の販売変化率でも既存店の販売変化率でみても、病院の効果が見られた。さらに、全店舗では、公務機関の存在、及び病院数の減少に関する効果も見られた。しかし、地方圏では、全店舗でみると病院、公務増加において効果が見られる一方で、既存店に限定した分析では有意な係数が得られなかった。したがって、ある程度の大きな都市では、病院や公共施設の戦略的な配置により中心市街地のにぎわいを取り戻すことができるかもしれないが、その効果は既存店舗にまでは及ばないといえる。

このように全店舗と既存店の結果は大きく違うものとなったが、現実はその中間的な状況にあると考えられる。既存店のみの分析では、大型店の参入によって周辺の地域に中小小売店の出店が促進される効果が除かれてしまっている。大型店が参入することによって客層や客足の流れが変化し、当該地域における中小小売店についても新陳代謝が活発になることが考えられる。このようなダイナミックなプロセスにおいて新規参入した中小小売店の活動も街の「にぎわい」としてカウントすべきものである。また、病院や公共施設の影響を検討する際には、大規模店舗内の中小小売店の出店の影響は関係ないので、全店舗における分析結果を参照すべきである。したがって、結論としては、大規模商業施設や公共施設を中心市街地に呼び戻すことで街のにぎわいをとりもどす「まちづくり三法」の考え方は基本的に正しいということが言える。

5 地方の特徴を活かした街づくりに期待

2000年に廃止された大店法は、大規模店舗の進出に際し地元の中小小売店の事業活動を確保できるよう配慮するために調整を図るものであったが、大規模店の進出はむしろ当該地域に集客をもたらす効果があることが確認された。大型店と小売店の相乗効果が確認されたことは、中心市街地の空洞化は大型店の立地が市街地から郊外に移転したことの影響もあることを示唆している。したがって、「大店法」が廃止され、今般、まちづくり三法の改正が目指していることは、小売業の規制体系の視点を「大型店VS小売店」から「市街地VS郊外」に転換させるものであり、基本的な流れとしては正しい判断といえる。また、病院や公務事業所などの公共施設の存在も中小小売店の売上と正の相関関係があることが分かり、「まちづくり三法」(中心市街地活性化法、大店立地法、都市計画法の改正法)の趣旨である地方自治体としての総合的な街づくりの重要性も確認された。

ここから先は、具体的な街づくりに取り組む各市町村の問題といえる。どのようなコンパクトシティを形成していくかは各自治体のおかれている状況によって異なる。国レベルの政策としては今回の都市計画法の改正によって売り場面積1万平米以上の大規模商業施設の立地規制を行う条例を制定することが各市町村に義務づけられた。本来は都市計画法に従って土地用途は制限されるべきものであったが、自治体レベルで立地規制を行うことは実態的には難しかった。その結果、本来規制対象となるべき郊外地に大規模ショッピングモールの建設が次々に行われた。今回の都市計画法の改正によって、これまでのように無秩序に行われた大型商業施設の建設には歯止めがかかるであろう。

振興策の中心となる中心市街地活性化法に基づく支援スキームは自治体レベルで策定する基本計画や事業計画の認定に基づいて行われることとなる。改正前の中心市街地活性化法においては、実行可能性が少なく十分に練られていない計画に対しても国が認定を行い、補助金の“バラマキ”になっているという批判があった。その一方で自治体サイドからは、国の関与は最小限にすべきとの声がある。今後の法律運用にあたっては、自治体それぞれが地域の特性を活かしながら実効性の高いプランを練り、その内容を的確に審査する体制をどのように確保するかが必要となる。また、計画の認定は厳しく行うが、実際の運用においては弾力的に対応し、自治体に無用の事務負担を避けるよう国レベルとしても配慮することが重要であろう。

最後に重要なのは、市町村レベルにおける街づくりに住民全体をどのように取り込んでいくかである。自治体レベルでできるのは条例に基づく立地規制や公共施設・交通機関などのインフラ整備に留まる。中核となる大規模商業施設の誘致は、民間事業者がその地域にどの程度の魅力を感じるかであり、また商店街の振興はテナントそれぞれがどの程度魅力的な店づくりができるかにかかっている。また、地域の住民レベルで自分たちの街をつくっていくという雰囲気を醸成することも重要である。今回、インタビューを行った富山市においては、市民が中心市街地に居住する際に補助金を交付するスキームを導入している。また、市の取り組みを市民に対して積極的にアピールして、市民を巻き込んだ活動に盛り上げていこうという意欲が印象的であった。地域の特性を活かしたアイデンティティを確立し、市民が誇り持てるような街づくりが日本各地で行われることを期待したい。

「ターンアラウンドマネージャー」(銀行研修社) 2007年6月号に掲載

2007年5月25日掲載

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