中小企業IT化で経済活性

元橋 一之
ファカルティフェロー

経営戦力の武器にできず

日本経済は明るさを取り戻し、企業のIT(情報技術)投資も回復している。ただ、最新のITシステムの導入が企業パフォーマンスの改善につながるとはかぎらない。筆者がハーバード大学ジョルゲンソン教授と行った日米比較分析によると、日本企業においてITシステムのレベルは米国と遜色ないが、十分な効果が得られていないことが分かっている。

その原因の1つとして考えられるのは、中小企業におけるIT経営の遅れである。コンピューターの処理能力向上によってパソコンベースでも業務用システムの構築が可能になり、中小企業でもIT化が進んでいる。また、取引先の要請によってコンピューターによる受発注システムを導入する企業も多い。しかし、現状においてITの利活用を効果的に行っていると胸をはれる企業は少ないのではないだろうか?

ITシステムの効果が十分に発揮されない企業は大きく次の2つのパターンに分類される。

ひとつは、ITを業務効率化のツールとして活用しているが、経営戦力を考える上での武器として考えていないパターン。もうひとつは、経営戦力上の武器として大規模システムを導入したが上手く使いこなせていないパターンである。

前者については、例えば受発注に関する伝票の整理や会計処理のためのパッケージソフトを入れて、業務の効率化を行うことで満足しているケースがあてはまる。このような個別業務の効率化は今もITシステムの重要な役割だといえる。しかし、ここで得られた企業のトランザクション(複数の処理を1つの処理単位にまとめたもの)のデータを分析して、既存顧客からの売り上げ向上や新規市場の開拓につなげるといった一歩進んだ使い方をしている企業は少ない。

後者は、ITシステムをこのような企業競争力の強化に生かしていこうという問題意識はあるが、使いこなしがうまくいかないケースである。例えば、競合相手がERP(企業資源計画)パッケージを導入したのでわが社もという話を聞くことがある。これは極端な事例だが、経営戦略においてIT投資の位置づけが明確化されていないと大規模なシステム導入は失敗に終わることが多い。

特に経営資源が限られている中小企業にとって大事なことは、「ITシステムは企業競争力を高めるための戦略的経営基盤である」という認識をもつとともに、「フォーカスされた実現可能性の高いプラン」を構築することである。

バランストスコアカード(BSC)などの手法をつかって財務面だけでなく、顧客ニーズや業務プロセスも含めた企業経営の実態を明確化し、その中でどの部分をITによって強化するか、重点領域を定めることが重要である。そのような中から「既存顧客に対するレスポンススピードの上昇」「新規事業分野への展開」「新たな販売チャンネルの開拓」など経営戦略においてフォーカスすべき点が明らかになる。

小さな成功積み重ね

このように自社のおかれている環境やあるべき姿がある程度明確になった時点で、コンサルティング会社を使うことも有効であろう。

いずれにしても、最初から欲張らずにポイントを絞って小さな成功を積み重ねていくことが重要である。

社内にITシステムに効果が見える形で表れるようになれば、社員の認識が高まりボトムアップで改革案が上がってくる好循環が生まれるに違いない。少子高齢化が進む中で、日本経済の長期的な先行きは決して明るいものではないが、日本経済の大層を占める中小企業の活性化によって、生産性主導の経済成長が進むことに期待したい。

2007年4月3日付 フジ・サンケイ・ビジネスアイに掲載

2007年4月13日掲載

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