物言う株主と企業 経営改善への実効性向上

宮島 英昭
ファカルティフェロー

鈴木 一功
早稲田大学教授

安倍政権による企業統治改革の進展とともに、経営改善に向けた株主と企業の対話(エンゲージメント)が注目されている。

並行してアクティビストファンドの活動も目立ち始めた。一般には、株主提案や意見公表などの公開ルートを通じて企業経営に関与する「物言う株主」の側面が注目されがちだ。だが実際の活動としては伝統的な機関投資家と同様、非公開の対話を通じたエンゲージメントも重要だ。近年、機関投資家の依頼を受け、原則非公開で長期的な対話に取り組むエンゲージメント代行会社も登場した。

筆者らは、2000年代以降のアクティビスト活動の実態を国際比較の観点から分析するとともに、エンゲージメント代行会社の交渉記録を得て非公開の活動を分析する機会を得た。本稿ではその成果を利用しながら、日本でのアクティビスト活動の実態と今後の可能性を検討したい。

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日本市場で公開の場での活動が確認されたファンドをアクティビストファンドと定義した。図では、そうしたファンド(延べ35ファンド)が5%以上株式を保有する企業数と、確認された公開のアクティビスト活動の件数を整理した。

図:アクティビストの大量保有報告書提出企業数と提案社数
図:アクティビストの大量保有報告書提出企業数と提案社数
(注)提出企業数は大量保有報告書の提出件数から5%未満に保有比率が低下した企業数を除いた残高ベース
(出所)企業情報データベースeol、Activist Insight、日経テレコンを基に筆者集計

まず04~07年に最初のピークがあった。00年代初頭から、伝統産業の中堅規模の手元資金が豊富な企業を中心に、村上ファンドなどが株主提案を通じた活動を始め、米スティール・パートナーズや英ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)など海外ファンド勢が加わった。

最初のピークの特徴は、第1に公開の要求を伴うケースが頻繁にみられることだ。大量保有報告書の提出件数(ピークで147社)のうち、実際にアクティビストの要求が報道されたのは63社と、4割強が要求を受けていた。

第2にアクティビストの要求は株主還元の増加(増配、自社株買い)に関するものや、高値買い取りを期待し非上場化を提案するケースが多かった。一方、独立取締役の選任や経営戦略に関する要求は著しく少ない。

第3にアクティビストの要求が、実際に企業により受諾される「成功確率」が低かった。成功確率は米国が最も高く6割、欧州では5割超なのに対し、日本の場合は約2割にとどまる。

こうした活動は08年の世界金融危機以降、急速に後退した。アクティビストが5%以上保有する企業は、11年には82社に減少した。公開での提案も急減し、10~12年に提案事例は1件も確認できない。

再び変化したのは、安倍政権が企業統治改革に着手してからだ。13年からアクティビストが5%以上を保有する企業は徐々に増え、機関投資家の行動指針「スチュワードシップ・コード」が改定された17年以降、提案を受けた企業は00年代前半の水準に近づいた。また13年以降、日本市場で活動するアクティビストファンドが増えている。金融危機以前には16のアクティビストが記録されていたのに対し、この時期には28が活動しており、海外からの新規参入も目立つ。

近年の活動の特徴は、第1に以前より対抗的な性格を弱めていることだ。大量保有報告書の提出件数残高(ピークで109社)のうち、アクティビストの要求が報道されたのは37社と3割程度に低下した。

第2に要求内容も以前の株主還元の増加から、取締役の選任、不採算部門や資産売却など、経営の本質に関するものにシフトした。

第3に公式の要求を伴うアクティビズムの成功確率は、欧米にはまだ及ばないが、4割に上昇した。また要求が受諾された場合の株式の超過収益率(CAR)は欧米と同程度の約6%となっている。

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10年代に入ると、一部機関投資家が担当部署を設けエンゲージメントを進めるようになり、エンゲージメント代行会社も登場した。

筆者らは草分け的存在のガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパン(GOJ)の交渉記録を基に、対象となった企業との間でどんな議論が交わされたのか、企業がどんな行動をとったのか、その結果株価がどう推移したのかを分析した。

GOJのエンゲージメントは第2期のアクティビストの活動と比べ、以下の特徴を持つ。

第1に提案内容として、社外取締役の増員といった企業統治関連が多く、株主還元政策、企業戦略関連(コア事業の増強、不採算部門の改善)と続く。第2にGOJの改善要求に関して、取締役会構成、株主還元、企業戦略のすべてで成功確率は7割強と非常に高い。第3に企業が要求に沿って取締役や株主還元の方針変更を発表すると、アクティビストのケースとほぼ同水準の株式の超過収益率(6%)が得られた。

以上の結果から、近年の多様化したアクティビズムが第1期に比べて実効性を増したことがうかがえる。

またGOJの活動の成功は、基本的に舞台裏で進められる非公開のアクティビズムが有効である可能性を示唆する。伝統的投資家の保有比率が高い大企業に対して、その要求を適切に代弁し、また企業にとってもメリットがある点を粘り強く説得することで、企業の理解を得たとみられる。

アクティビストの非公開の場での活動は、エンゲージメントを中心とするとはいえ、その要求が実現されないときは、公開での活動を辞さない。例えばスパークス・アセット・マネジメントは、友好なエンゲージメントを主要な戦略としているが、帝国繊維の例のように必要があれば公開の活動に踏み切ることもある。

このように近年の日本の市場の新しさは、公開のアクティビストから伝統的な機関投資家まで、様々な形態で企業経営に関与する主体が分布するようになったことだろう。この点に、アクティビストが伝統的な機関投資家とは独立して活動していた00年代半ばの日本との大きな違いがある。

最後に今後の日本の企業統治の改善の鍵を検討しよう。まず企業側では、経営陣が多様化した機関投資家と対話する姿勢を改めて明確に持つことだ。経営者は、短期主義に陥っていない対話に値する投資家を選別し、彼らとの真摯な対話を通じて自社の戦略の正当性を説明し、必要な改革を実施することが重要となる。

一方、投資家側ではエンゲージメントでの協調行動が焦点となる。17年のスチュワードシップ・コードの改定では、株主間の共同行動を通じた集団的エンゲージメントが「有益な場合もあり得る」ことが確認された。もっとも実行にあたっては情報伝達のあり方次第では、インサイダー取引規制上の問題が生じる可能性がある。またエンゲージメントの内容により、大量保有報告制度上の共同保有者とみなされる恐れもある。

今後、こうした点について、どこまで許容されるかの実務を明確化していくことが、集団的エンゲージメントの可能性を引き出すうえで重要な課題となろう。

2020年1月21日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2020年2月12日掲載

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