「失われた10年」乗り越えた日本企業 「ハイブリッド」型顕著に

宮島 英昭
ファカルティフェロー

失われた10年を経て、日本企業の姿は多様化した。資金調達や株主構成は資本市場に立脚しながらも、取締役会改革や雇用面では長期関係を重視したハイブリッド型が支配的なタイプとして浮上した。一方で、数多く残る伝統的企業は統治構造改革や事業再構築が先送りされている。

すべての企業に有効な解法なく

1990年代半ばから、日本の企業は事業構造の再構築と並び取締役会や雇用システムなどの内部組織を変革する大規模な実験を行ってきた。「失われた10年」は、企業レベルでみれば、「実験と改革の10年」といえよう。ではその結果、日本企業の姿は米国型の構造に徐々に収れんしてきたのか、あるいは伝統的な構造を単に修正したのにとどまるのか、それとも新たなハイブリッドな形が現れつつあるのか。

先ごろ刊行された"Corporate Governance in Japan"(青木昌彦、G・ジャクソン両氏との編著)では、クラスター分析と呼ばれる手法で、企業統治と内部組織の特徴と分布を調べた。財務総合政策研究所のアンケートに回答した東証1、2部上場の事業会社、(除く金融)723社を対象とした分析結果を見ると日本企業は著しく多様化した(表)。

アンケートに基づくクラスター分析の結果

企業の姿が多様化し、企業統治に関連して異質の問題に直面している場合、すべての企業に有効な解法を見いだすことは難しく、慎重な制度設計が必要になる。以下では、このクラスター分析を元に、近年の企業の変化を整理し、今後の改革の焦点を探ってみたい。

米国型企業の特徴が、市場志向的な金融・所有構造(直接金融と機関投資家の優位)と内部組織(外部取締役採用、強い業績連動報酬、流動的な雇用)の統合にあるととらえれば、この意味の米国型は日本では明確なグループとして識別されない。むしろ支配的になりつつあるのは、市場志向的な金融・所有構造と、長期関係を重視する関係志向型な内部組織(内部者中心の取締役会や終身雇用)が統合したハイブリッドタイプだ。

ただ後者の面でもこのタイプの企業は、コアとなる従業員を絞り込む一方、成果主義的賃金やストックオプションの導入、情報公開や自社の実態に即した取締役改革を進めた(表の企業統治改革の欄)。例えばトヨタ自動車は2003年、執行役員制と社外監査役を導入する一方、現場の知識が不可欠として社外取締役導入を避け、取締役と執行役員を意識的に兼任させた。

このタイプの企業は、企業数では24%にとどまるが、雇用者数では67%に達し、収益も相対的に高い。海外依存度が高く、厳しい製品市場の規律に直面するこの企業群は、金融商品取引法導入に伴う内部統制の整備などを除けば、企業統治の問題は小さく、取締役会や役員報酬の設計問題はすでに峠を越えた。

資本市場との良い関係築け

このタイプの焦点は、資本市場との良好な関係の構築にある。機関投資家の圧力や、敵対買収の脅威から経営に近視眼的になり、過剰配当に陥ったり、買収防衛策に過大なコストが支出されたりする懸念がある。

従ってこの企業群で、公正なルールに従った買収防衛策の導入は、かく乱的な市場の圧力を緩和する意味で便益が費用に勝る。また、近年、「復活」が注目されている事業会社間の株式保有も戦略的な合理性をもつ限り、否定されるべきでない。ただ、内外の資本市場への依存が強まったハイブリッド型企業にとって、そうした政策の採用の必要性と合理性を、資本市場に積極的に示す努力が不可欠である。

銀行借り入れに依存して機関投資家の保有比率が低い一方、有期雇用や成果主義的賃金、ストックオプションを積極利用する企業も独自のクラスター(群)を形成している。この企業群も、関係志向的な金融と市場志向的な雇用システムという異なった2つのモードが結合している点ではハイブリッドだが、結合の仕方は逆である。知識集約的なIT(情報技術)関連産業や、逆にその程度の低い小売業などに分布し、創業者に率いられた社齢の若い企業が多い。この新興企業群のパフォーマンスは、分散は大きいが平均的に高く、その比重は02年時点で従業員ベースで10%だが、企業数では21%を占めている。

このタイプが独自のクラスターとなったのは、東証1、2部の新規上場企業が794社と上場廃止の2倍超に達した(1997-04)という創造的破壊のプロセスを映した動きだ。一方、創業者が暴走し、過大な投資やM&A(合併・買収)に陥る潜在的な危険が生じ、支配株主(創業者)による少数株主の利益の毀損というエージェンシー問題が提起されることにもなる。従ってここでは、起業家のインセンティブ(誘因)を阻害せず、少数株主の利益を守る仕組みを設計するという内部ガバナンス(統治)の整備が課題になってくる。

一方、関係志向的な金融・所有構造と内部組織が結合した伝統的日本型企業も依然、分厚く存在する。資本市場への依存が小さく、機関投資家の保有比率も低いこの企業群は、内部統治改革や雇用システム改革に消極的で、収益力も相対的に低い。社齢は一様に長く、規模はばらつきが大きいが、建設、食品、繊維、化学機械などの業種に多い。その比重は従業員ベースで23%だが、企業数では過半を超える。この企業群の中に多い、必要な統治構造改革や、事業再構築を先送りしている企業こそが、構造改革の中心対象である。

新たな規律付け 仕組み構築急務

その焦点の第1は、この伝統型企業を規律付ける主体と仕組みである。かつては、企業の業績が悪化すると、メーンバンクが介入して経営者の交代のトリガー(引き金)をひき、経営再建を主導した。しかし、銀行危機以降、事前から事後まで包括的にモニタリングしてきた銀行の役割は縮小している。従って、メーンの私的整理に並ぶ仕組みの構築が緊急の課題であり、バイアウトファンドなどのM&Aが1つの重要な候補になろう。

第2に、この企業群のサブタイプとして存在する上場子会社の問題だ。日本に固有の慣行ともいわれる上場子会社は、全上場企業の12%を占めるが、本質的に支配株主(親会社)と一般株主の利益相反問題が内在している。実際、こうした企業では内部統治改革が鈍く、経営の透明性が低いだけでなく、近年総資産利益率(ROA)が業界平均を下回る傾向が目立つ。資本市場の評価に直面する親企業が、この上場子会社の仕組みをいかに整備するかは今後の重要な戦略的課題である。

最後に、この企業群に含まれる債務にほとんど依存しない企業の扱いだ。この企業では、過剰な現預金を、収益を期待できないプロジェクトにあえて投資するフリーキャッシュフロー問題の可能性があるが、負債による経営の規律付けは期待できず、そのため、アクティビストファンドの活動の余地が生じる。だが、このタイプの企業は、買収の脅威が高まると、経営者の保身から買収防衛策を導入したり、いっそうの安定化を進めたりする可能性がある。これらは明らかに構造調整に対して阻止的である。先のハイブリッド型と対照的に、安易な防衛策導入や株主安定化を抑止する慎重な制度設計が必要だ。

2008年1月24日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2008年1月30日掲載

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