中国経済――ソフトランディングに向かう09年も8%以上の成長は維持可能

関志雄
コンサルティングフェロー

中国経済は2003年以来5年連続の2ケタ成長を経て、緩やかな調整局面に入っている。それでも、深刻な金融危機に見舞われている米国やその影響を強く受けている日本とヨーロッパ諸国に比べ、むしろ好調さが目立っている。

中国の08年第3四半期の成長率は9.0%と、水準そのものは依然として高いものの、外需と内需がともに減速していることを反映して、ピークであった07年第2四半期の12.6%と比べて3.6%ポイント低下している(図1)。その後に発表された経済指標は、11月の工業生産(付加価値ベース、実質)の前年比の伸びが5.4%と、07年通年の18.5%から大幅に落ち込んでいるなど、景気の更なる減速を示している。

図1:07年第2四半期がピーク
図1:07年第2四半期がピーク

これに対して、中国政府のマクロ経済政策のスタンスはインフレ抑制から成長維持に移ってきた(表)。特に、米国発金融危機が勃発した08年9月以降、金融政策と財政政策を中心に景気対策が本格化している。

表:インフレ抑制から成長維持へ、最近の中国政府のマクロ経済政策の変化
表:インフレ抑制から成長維持へ、最近の中国政府のマクロ経済政策の変化

まず、当局は9月以降、利下げや、預金準備率の引き下げなど、金融緩和を実施している(図2)。インフレ率はすでに08年2月のピーク時の8.7%から11月には2.4%に低下しており、今後、景気の減速と石油価格の低下を受けて、インフレがいっそう沈静化すると予想され、金融緩和の余地がさらに広がるものと見られる。

図2:金融政策も引き締めから緩和へ転換
図2:金融政策も引き締めから緩和へ転換

また、中国政府は、11月9日に、(1)安価な住宅の建設、(2)農村基盤の整備、(3)鉄道などインフラ整備、(4)医療、文化、教育事業の促進、(5)環境対策の強化、(6)技術革新の促進、(7)震災被災地の復興加速、(8)国民の収入引き上げ、(9)増値税(付加価値税)の減税、(10)銀行貸し出しの拡大の10項目からなる拡張的財政政策を打ち出している。その総投資額は、2010年末までに4兆元(約55兆円)に達する見込みである。

これらのプロジェクトの実施には、10年末までに中央財政による1.18兆元を含む約4兆元(07年のGDPの16%相当)が必要となる。そのうち、住宅保障プロジェクトには2800億元、農村民生プロジェクトと農村インフラには3700億元、鉄道・道路・空港・都市・農村送電網には1兆8000億元、医療衛生・文化教育事業には400億元、生態環境保護には3500億元、自主革新・産業構造調整には1600億元、災害復興再建と重大被災地には1兆元が割り当てられる。

金融・財政政策の効果は08年後半に表れる

拡張的金融・財政政策に支えられて、中国は、09年も8%を上回る成長率を達成できるものと見られる。ただし、その効果が表れるには、09年の後半まで待たなければならないため、景気減速は当面続きそうだ。

インフレのリスクが薄れ、輸出も伸び悩むなかで、当局は人民元を切り上げて景気を刺激するという誘惑にかられているが、国際協調の観点から、この選択肢は現実的なものではない。世界的金融危機が落ち着くまで、中国は人民元の安定維持に努めると見られる。一方、米国発の金融危機の影響を受けて、世界経済は、08年に続いて09年も更なる景気の減速が避けられないと見られる。11月に発表されたIMF(国際通貨基金)のWorld Economic Outlook Update(改訂「世界経済見直し」)によると、09年の日米欧は軒並みマイナス成長になり、世界経済成長率も08年の3.7%から2.2%に低下するが、中国は減速基調が続くものの、09年も8.5%という比較的高成長を維持できると予想している。中国のGDP規模(購買力平価ベース)が世界の12.0%に当たることを合わせて考えれば、中国による世界経済成長への寄与度は、全体(2.2%)の半分近くに相当する1.02%(8.5%×12.0%)に上ることになる(図3)。このように、今回の米国発金融危機は、中国がグローバル大国として台頭することを象徴する出来事になりそうである。

図3:09年世界の成長の半分近くは中国が占める
図3:09年世界の成長の半分近くは中国が占める

『週刊エコノミスト』2009年2月9日臨時増刊号(毎日新聞社)に掲載

2009年3月3日掲載