地震、豪雨、台風と年々自然災害が増え、備えへの関心が高まっています。生活者の備えについての意識や行動はどうなっているのでしょうか。私たちは、2024年5月に全国約21,000人の生活者を対象に「自然災害への備えと復興に関する調査」を行いました。
この記事では、生活者の自然災害への備えの有無やきっかけを整理し、地域別の災害に対するリスク感度と備えとの関係を調べることで、「備える人を増やす」ことについて考えます。また、9月1日の「防災の日」を前に、お読みいただいた皆様が、家族や友人と「備え」について話し、「備え」を取り入れるきっかけになればと思います。
1. 自然災害に対する「備え」の状況ときっかけ
図1は、全国20~79歳男女の自然災害全般に対する個人としての 備えの状況です(2024年5月調査時点)。57.9%と6割弱の生活者が「備えあり」でした。一方で、「備えなし」の人は42.1%で、そのうち、備えをしようと思ってはいるものの行動していない人が約3割、備えに対して意識が向いてない人が約1割いることがわかりました。
続いて、備えをする人を増やすヒントを得るために、「備えをしている」と答えた12,449人を対象に、「備えをはじめたきっかけ」について聞いてみました。図2で色分けをしている通り、大きく「自然災害の増加」「情報発信」「被災経験」「ライフスタイルの変化」にわけて見てみましょう。
1位は「最近地震や自然災害が増えたから」(69.0%)で、近年の自然災害増がきっかけでした。2位は「テレビやメディアでの発信を見たから」で29.3%です。また、3位は「ご自身やご家族に被災の経験があるから」(13.1%)で、「出身地が過去に被災したから」(10.1%)、「ゆかりのある地域が被災したから(出身地以外)」(5.2%)と併せて、自身や身近な人の被災経験がきっかけの人たちがいました。
緑色で示した「引っ越しや家を購入したから」(9.2%)、「結婚や出産などで家族が増えたから」(4.9%)、「ペットを飼い始めたから」(3.5%)といったライフスタイルの変化がきっかけの人たちもいます。ライフスタイルが変化する際の買い物時に、備えの必要性を伝えることも有効そうです。
ここで、水色の「情報発信」に注目します。2位の「テレビやメディアでの発信を見たから」に加えて、「お住まいの自治体からの発信を見たから」(11.9%)、「国からの発信を見たから」(5.4%)と、民間や地方自治体、国からの情報発信・普及啓発も備えのきっかけになる重要なツールになっていることがわかりました。
2. リスク感度を調べる~大きな地震は「いつ・どこで」起きると思うか?
気象庁によると、日本全国で1950年以降、震度6弱以上の地震は70回発生し、そのうち2011年の東日本大震災以降に35回と半数 がこの10年余りの間に発生しています(注1)。一方で、1950年以降に震度6弱以上の地震が一度も発生していない府県が19あり、居住地によってリスクの感じ方は異なりそうです(注2)。 そこで、震度6弱以上の地震が「今後何年以内」に発生すると感じているかを災害に対する「リスク感度」とし、生活者に「居住地」と「居住地以外(自分が住んでいる地域以外の日本国内のどこか)」に分けて聞いてみました。
図3は、年代別に震度6弱以上の地震が、「いつ(今後何年以内)」、「どこで(居住地、居住地以外)」で起きると思うかを集計した結果です。
居住地(図3-a)と居住地以外(図3-b)で比較すると、1年以内の超短期のリスク感度(緑色)は、全ての年代で、「居住地以外で発生する」と思う人が「居住地で発生する」と思う人より多く、特に60歳以上では約4.6倍も多くなりました。
居住地以外(図3-b)については、全ての年代で、7割以上の人たちが今後10年以内に地震が発生すると思っています。また、「いつ」起きるかと思うかは、年代を問わず同じ傾向が見られました。
居住地(図3-a)については、全ての年代で、10年以内に発生すると思っている人が半数以上となりました。20代では6割超えでしたが、居住地以外に比べて低い結果となっています。 また、5年以内、3年以内、1年以内のそれぞれの期間 では、年代が若いほど、短期間に地震が発生すると思う人の割合が高く、地震への意識・不安が高いことがわかります。特に、1年以内の超短期では、20代(13.3%)と60代以上(5.3%)との差が最も大きくなりました。
3. 「備え」と「リスク感度」の関係は?~地域比較をしてみよう
続いて、生活者の「備え」と「リスク感度」を居住している都道府県別に集計し、地域の違いを見てみましょう。図4の縦軸は、都道府県(居住地)別の災害に対する「備え率」で、全国平均値は57.9%でした。横軸は、5年以内に自身の居住地で震度6弱以上の地震が発生すると思う人の割合を「リスク感度率」とし、居住地別に集計しました。全国平均値は30.4%です。
バブルの大きさは、「令和2年国勢調査」による昼間人口(注3)で、人口の多寡を示します。バブルの色は、濃い青色は全域が令和6年8月8日~15日に 発表された南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の地震防災対策推進地域、薄い青色は一部が対象地域(注4)、緑色は「令和6年能登半島地震」の災害救助法適用地域(注5)、黄色はその他の地域を示します。
ここからは、縦軸と横軸のそれぞれの平均値線(灰色点線)で、4つのグループに分けて、それぞれの顔ぶれを比べてみましょう。
第1グループ:
「備え率」高い×「リスク感度率」高いグループ(15都県)
青色の南海トラフ地震防災対策推進地域が多く、昼間人口の多い東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県が含まれます。また、近年大きな地震を経験した宮城県、福島県、石川県 、新潟県、富山県、宮崎県も入っており、宮城県、福島県、石川県は、特にリスク感度率が高いです。
第2グループ:
「備え率」高い×「リスク感度率」低いグループ(11府県)
山形県、福井県以外は、南海トラフ地震防災対策推進地域に指定されています。また、大阪府、兵庫県、熊本県は過去に大きな地震を経験しました。5年以内の地震発生率は低いと感じていますが、平時から備える意識が高い地域と言えるでしょう。47都道府県中、最も備え率が高かった静岡県(69.9%)が含まれます。
第3グループ:
「備え率」低い×「リスク感度率」高いグループ(4県)
愛媛県のみ南海トラフ地震防災対策推進地域 の地域でした。「リスク感度率」は平均以上ですが、「備え率」が平均より低いグループです。愛媛県と栃木県は、「備え率」が平均値に近いため、住民に効果的な働きかけ をすることで「備え率」が高まり、第1グループに移行する可能性があります。
第4グループ:
「備え率」低い×「リスク感度率」低いグループ(17道府県)
4グループ中でその他の地域が7道県と最も多いです。特に昼間人口の多い北海道、福岡県、京都府は、備えの行動を促す工夫が必要です。また、1950年以降、震度6弱以上の地震が1度も発生していない19府県のうち半数の10府県がこのグループに含まれていました(注6)。大きな地震を経験していない居住者も多いため、「リスク感度率」が低いと考えられます。しかし、巨大地震注意の対象になった地域は、リスク感度が高まることで、「備え率」が上昇することが期待されます。一方で、その他の地域かつ大きな地震の経験がない秋田県、島根県、長崎県には、震災に対する意識と備えの行動の両面を高める必要があります。
4. 調査からの気づき
今回の調査では、国民の4割以上が事前の「備え」をしていないことがわかりました。
また、居住地での地震発生のリスクについては、若い年代がより不安を感じていました。
さらに、都道府県を「リスク感度」という意識と、「備え」という行動の高低で分けると、リスク感度率が高い地域は、備え率も高い傾向があることがわかり、直近で大きな自然災害を経験している宮城県、福島県、石川県、千葉県が当てはまっています。
最後に、どのように危機意識を高め、備えの行動に繋げられるかを考えてみます。調査結果(図2)より、実際の災害以外の 「備えのきっかけ」は、情報の発信とライフスタイルの変化です。そこで、「備え率」が1位の静岡県の情報発信の取組みに着目します。
静岡県は、1950年以降の震度6弱以上の地震は2回(いずれも2000年代以降)と極端に多いわけではありませんが、複数のプレートが重なり(注7)、大きな地震が発生する可能性が長年指摘されています。消防庁によると、静岡県内の市町村が実施した直近の震災総合訓練の参加人員数は、日本全体の2割以上を占めており、全国一位です。さらに、平成24年度以降10年連続一位(注8)で、多くの住民が参加しています。行政の啓発事業の成果が「備え率」の高さに表れている好例といえるでしょう 。
以上より、備える人を増やすには、自然災害に対する危機意識を高めることが有効であり、メディア、地方自治自体、国による情報発信が行動のきっかけになることがわかります。
令和6年8月8日に発表された南海トラフ地震臨時情報が、備えを増やす効果的なきっかけになるのか、効果的なきっかけとなるためにはどうしたら良いのか、日本は自然災害が多い国だからこそ、備えに関心を持ち行動してもらうために、今後も生活者の声を聞いていきたいと思います。次回は、具体的にどんな行動をし、どんな備蓄をしているかを調査結果とインテージの保有するパネルデータで分析します。
出典:インテージ「知るギャラリー」2024年8月20日公開記事