生成AIはどのように企業に広がったのか― 中小企業が示す導入の同期性 ―

小西 葉子
上席研究員(特任)

久保 隆史
マネーフォワード総合研究所

新技術は、準備が整った企業から段階的に導入され、時間をかけて広く普及する。こうしたイメージは、政策議論や実務の現場でも広く共有されてきた。

しかし、日本の中小企業データを用いて導入の実態を観察すると、その広がり方は必ずしも連続的ではない。本コラムでは、株式会社マネーフォワードのクラウド会計ソフト等のデータを用い(脚注)、2022年以降に同ソフト等を利用する中小企業の約87,000社を対象として、生成AIの導入を、業種別・規模別・タイミング別に整理し、普及の実像を記録する。

業種によって導入水準は大きく異なる

まず、業種別に生成AIの導入水準を見ると、明確な差が確認できる(図1)。ICT、教育、サービス、小売といった分野では導入率が高く、特にICTではGPT-3.5やGPT-4の公開を契機として急速に普及が進んでいる。一方、建設、運輸、飲食、不動産、医療・福祉といった分野では導入は緩やかにとどまる。これらの業種では、物理的・対面的な業務の比重が高く、生成AIとの補完関係が直ちには形成されにくいことが、その背景にあると考えられる。

製造業はその中間に位置している。デジタル先進産業ほど急速ではないものの、建設や運輸を上回る導入水準が確認されており、業務領域によっては生成AIの活用が広がりつつある。業種間の導入差は、対面・非対面の別にかかわらず観測されており、業務に含まれるタスク構造やデジタル基盤の違いを反映していると考えられる。

次節では、企業のデジタル基盤の違いに着目し、それを構成する各種デジタルサービスの利用率を規模別に確認する。

図1:業種別生成AI導入率(%):2022年1月〜2025年6月(約76,000社)
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図1:業種別生成AI導入率(%):2022年1月〜2025年6月
注:分析対象は業種が分類不明なものを除いている。
出所:マネーフォワード クラウド会計データを使って著者作成

生成AIは企業規模の壁を越えやすい

次に、企業規模別にデジタルサービスの利用状況を見る(図2)。全体的に見ると、企業規模が大きいほど利用率が高く、基幹業務システムやコミュニケーションツールでは、中規模企業(21~50人)で特に利用率が高いなど、デジタル基盤が企業規模とともに段階的に積み上がる構造が確認できる。

これに対して、生成AIの導入率は企業規模による差が小さい。最小規模層(1~5人)とその次の規模層(6~20人)ではほぼ同水準にとどまり、中規模企業と比べても増加幅は数ポイント程度である。このことは、生成AIが従来のIT投資と比べて設備投資や組織的準備をあまり必要とせず、小規模企業にとっても導入しやすい技術であることを示唆している。

図2:企業規模(従業員)別デジタルサービス利用状況(2024年12月時点)
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図2:企業規模(従業員)別デジタルサービス利用状況(2024年12月時点)
注:分析対象は、従業員規模が把握可能であり、かつ2024年12月に少なくとも1つのデジタルサービスを利用している企業に限定している。
出所:「マネーフォワード クラウド会計」、「マネーフォワード クラウド給与」を使用して著者ら作成

生成AI導入のタイミングは業種・規模を超えて同期している

水準や構造の違い以上に特徴的なのが、導入の「タイミング」である。図3は、2022年1月から2025年6月にかけて、生成AIを初めて導入した中小企業の割合を月次で示している。2022年を通じて導入はほとんど見られない。一方で、2023年初頭に急激な立ち上がりが観測され、導入が特定の時期に集中していることが分かる。

重要なのは、導入水準には業種間で差があるものの、「いつ導入したか」という時間軸に注目すると、企業行動が業種や規模を超えて強く同期している点である。導入のタイミングは、大規模言語モデルの公開・更新といった外生的な技術イベントの影響を強く受けており、各企業の準備が徐々に整った結果として広がったというよりも、技術的な節目を契機として一斉に起きている。その結果、導入は連続的に進むのではなく、特定の時点に集中して現れている。以上の結果は、生成AIの導入過程が、少なくとも初期段階においては、典型的なS字型の技術普及モデルでは十分に捉えきれない可能性を示唆している。

図3:中小企業における生成AI初回導入タイミングの推移(月次)
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図3:中小企業における生成AI初回導入タイミングの推移(月次)
注:分析対象は、観測期間中に生成AIへの支出が少なくとも1回確認された企業に限定し、初回支出が発生した月を導入時点としている(約22,000社)。
出所:「マネーフォワード クラウド会計」を使用して著者ら作成

生成AIの普及タイミングを捉えるビッグデータ

これらの結果は、社会への普及を促す政策や支援策を考える上でも、恒常的な底上げに加えて、技術の波が到来した瞬間にどのように企業を支えるかという動的な視点が重要であることを示している。生成AIの普及は、不連続な跳躍として現れる側面を持っており、その変化の過程をデータに基づいて正確に捉えることが、今後の中小企業支援や技術政策を設計する上での鍵となる。

また、生成AIが「当たり前」の存在となった後には、こうした初期の普及過程や判断の集中は見えにくくなる。実利用に基づくビッグデータは、企業行動が実際に動いたその瞬間を捉え、技術普及の変化の過程を記録として残すことを可能にする。

本研究は現在も進行中であり、本コラムで示した結果は、生成AI導入をめぐる分析の初期段階の一部に位置づけられる。現在は、生成AIの導入が企業の生産性や業務成果に与える影響についての分析を進めており、今後もデータに基づく検証を継続し、将来の政策的議論を支える基盤となることを目指す。

脚注

データは関係法令や株式会社マネーフォワードの利用規約に即して厳正に取り扱い、個人情報を含まない統計データに加工している。「情報セキュリティ・個人情報保護に関する考え方」については下記を参照。

同社「情報セキュリティ・個人情報保護に関する考え方」https://corp.moneyforward.com/aboutus/governance/information_security/

2025年12月25日掲載