最優先課題は不良債権処理

小林 慶一郎
研究員

総合デフレ対策の評価

銀行セクターを立て直すためには、ストックの問題(不良債権の蓄積)とフローの問題(銀行業務の低収益性)の両者を解決する必要がある。不良債権処理を進める上で重要なことは、「銀行の資産査定の厳格化」によって貸出先企業の将来性を厳格に判断することであり、銀行業務の収益性を上げるためには「銀行ガバナンスの強化」によるビジネスモデルの変革が重要である。今回、「骨抜きになった」と言われる税効果会計の問題(自己資本の充実)や銀行の経営責任の問題は、そもそもこれら二つを実現するための手段だったはずだ。今回の対策は、資産査定厳格化などについては厳しい内容が無傷で残っていて、今後の運用に期待できる。特別検査の再実施と検査結果の格差公表などを迅速にアクションに移せるかどうかが重要であり、いつまでもアクションが実施できないなら、対策は「骨抜きになった」ということになるだろう。これからがむしろ正念場である。

経済混迷から脱却するための施策

日本経済の現状は、過剰な債務を抱えた企業や不良債権に苦しむ銀行が、資産や商品を投げ売りすることで物価下落が続く、緩やかなデット・デフレーション(債務デフレ)だと考えられる。つまり、デフレは不良債権発生の原因となっているかもしれないが、不良債権の存続もデフレの原因となっているのである。銀行の不良債権(企業の過剰債務)の削減は、債務デフレのメカニズム(デフレ継続と不良債権増殖の悪循環)を断ち切るために必要な政策であり、経済混迷から脱却するために最も優先すべき政策課題である。

しかし、不良債権処理を進める上で、借り手企業の再生をシステマティックに進めることと、短期的な倒産や失業の発生に対応するセーフティネットの整備が不可欠である。

企業再生については、銀行が中小企業を倒産に追い込む誘因となっている過度に厳格な不良債権の無税償却要件を緩和することが喫緊の課題である。さらに、金融再生と産業再生とは同時に終結できないものであり、それぞれ別々の時間軸を設定することが重要である。銀行の処理(資産査定の厳格化、引当の強化、資本注入)は数ヶ月内に実施すべきだが、企業の処理(清算、経営再建、営業譲渡など)は雇用調整もからむので、数年の期間をかけて計画的に遂行すべきである。

セーフティネットについては、雇用対策に使う具体的な金額(例えば三年間で十兆円程度)を早急に示し、国民に安心感を与えることが必要だと思われる。ただし、二、三年の不良債権集中処理期間が終わり、さらに数年後に民間経済が自律的に成長するようになれば、次は「財政再建」が日本の最重要課題となる。したがって、セーフティネットのために財政出動を行う際には、数年後からの長期的な財政再建の方策も国民に明示することが必要である。

また、不良債権処理と企業再生が進展するのにあわせて、日銀が十分な金融緩和でデフレ圧力を軽減することも重要である。

2002年11月19日号 『週刊エコノミスト』に掲載

2002年11月18日掲載

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