過去数十年にわたる長期不況の中で、税収は落ち込み、景気対策のための財政支出が膨らんだ。危機的な状況の財政をどうやって立て直すのか。この財政再建も、経済論争の大きなテーマだった。
政府は財政出動と財政再建の間を揺れ続けた。
1970年代以降、国債残高は増え続けており、バブル期以前から、財政再建は政府の悲願だった。しかし、90年代初め、景気の急落に対応するため、政府は応急処置として財政出動に踏み切った。それは、あくまで一時的な政策だという位置づけだった。
90年代半ば、住専問題が決着し、一時的な景気回復が達成されたとき、政府は緊縮財政路線に大きくかじを切った。97年、橋本政権での消費税増税と財政構造改革法の成立である。
しかし、同年秋からの金融危機で景気は急激に悪化し、小渕政権は極端な財政拡大路線へと転換した。 そして現在の小泉政権は、再び財政再建を目指している。
このように拡大と緊縮を揺れ動いた財政については、様々な批判があった。
たとえば、「政府は、本音では緊縮財政を目指していたため、景気回復に必要な財政出動を十分にやらなかった」という批判だ。
しかし、公共事業と、減税や不況による税収減で、政府部門の債務は700兆円を超えた。90年代以降で400兆円の公的債務が増えたことになる。これでも財政出動が不十分だったとはいえないのではないか。
「アクセルとブレーキを交互に踏むような財政政策だから景気が前に進まない」との批判もあった。
しかし、財政出動のアクセルを緩めるとすぐに景気が失速したのは、景気のほうに構造的な問題があった、とみるべきだろう。
結果的に、公的債務の国民経済に占める割合は、終戦直後の水準を上回り、なお増え続けている。国債価格が暴落し、財政破綻が起きる、というのも絵空事とは思えない状況だ。
しかし、財政問題への危機感はいまひとつで、国債暴落も起きる兆しはない。小泉政権が財政再建を目指して、様々な分野で抜本的な改革を進めようとしても、異論が出てコンセンサスがまとまらない。それは、財政への危機感が低いことの結果だろう。
危機感が高まらない理由のひとつは、ゼロ金利状態が続いていることだ。
財政が悪化すれば、通常、金利が上昇し、国民生活を圧迫する。それが危機感につながり、財政改革が進む。ところが、いまの日本では、ゼロ金利が解除できないため、財政悪化がすぐ金利の上昇へと結びつかない。ゼロ金利が続いているため、国債の高値期待も持続し、国債暴落が起きない。だから危機感が、実感できない。
裏を返せば、日本経済が長期不況を完全に脱却し、ゼロ金利状態が解除されるときが、財政危機の顕在化するときだともいえる。
そのときに、政府の借金は、国民ひとりひとりの借金だという現実が迫ってくる。財政破綻のツケを支払うには、歳出カット、増税、高インフレの3つの選択肢しかないだろう。どれも、国民生活に大きな痛みをもたらす。
では、いま、なにをすべきか。財政再建の道筋を探り、もっとも損害の少ない方法を選ぶための真剣な議論が求められている。
2004年4月17日 『朝日新聞』に掲載(全8回)