第4次産業革命を生き抜くための生産性向上
中堅・中小企業へのIoT導入

岩本 晃一
上席研究員(特任)

研究会の内容と成果

日本の中堅・中小企業の現場に新たに本格的なIoTを全面的に導入し、かつ実績が出た、という事例はまだまだ少ない。中堅・中小企業にIoT導入が進まない理由は、「よくわからない」の一言に尽きる。その壁を乗り越えるため筆者は「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」を2016年4月から主催してきた。

本研究会は、モデル企業を取り上げ、検討の途中経過の試行錯誤のノウハウを「全て公開」するという公益目的の研究会である。研究会がモデル企業に対して、コンサルティングを行う代わりに、「企業ノウハウ」を公開していただくことを条件に参加してもらった。中小企業はIoT、AIを難しく考えがちだが、そうではない。中小企業は日々、「カイゼン(新しい事業戦略を含む)」を行っている。ところが、昨今、時代を反映し、「カイゼン」のなかにIT技術を用いることが、よく見られるようになった。人はそれをIoT、AIと呼んでいるにすぎない。IoT、AIは単なる道具でしかないが、昨今のIT技術の進歩により、IoT、AIを用いた「カイゼン」は、飛躍的な競争力向上をもたらすケースが多い。

16年度研究会に参加したモデル企業は、研究会の活動をどう評価しているか、インタビューした。以下はその抜粋である。

〈東京電機〉
「従来、立会検査時に顧客の様子もあまり見ず検査成績表を説明していた。しかし、社員にタブレットを持たせ、会議室にプロジェクターを入れたところ、社員が前を向いて説明するようになったことで、顧客の表情が見え、顧客の要望に応えようとするようになった。社内の元気な挨拶も定着し、ある顧客から『以前と変わった。まるで別の会社のようだ』と言われた」「業界全体の売り上げが2%増のところ、当社の売り上げは10%増となった」

〈正田製作所〉
「研究会に参加したお陰で、将来に向けた大きな戦略が明確化しつつある」「もし研究会に参加しなければ、戦略は出てこなかった」「これで、世界で適用する生産方式を作り上げていける」「いまでは、群馬県庁が『IoTのことなら正田に問け』と言っている。とても嬉しい」「これまでになかった講演の機会が増えてきた」「中小企業白書にも取り上げられた」

〈日東電機〉
「もし研究会に参加していなければ、IoT導入はできなかった」「IoT導入のためにいろいろと試行錯誤した、その試行錯誤こそがノウハウである」「お互いに試行錯誤のノウハウを出し合い、情報を共有化すること自体が有益であった」「これまで、当社に発注していた会社からは、課長が視察に来ることも稀だったが、昨年は、複数社から社長が見学に来た」「生産能力は10%アップした」

地方実施による全国展開

当研究会に参加している4県は、議論の推移を見つつ、「中小企業へのIoT導入支援」のノウハウを会得、2018年度予算を確保し、当研究会と類似の研究会を県内で立ち上げ、地元の中小企業へのIoT導入を推進している。

また、近畿経済産業局が中心となり、近畿圏においても、2018年度から支援策をスタートしており、地方での実施による全国展開がスタートしている。こうした地方展開が全国に拡大することは、当研究会の当初からの目的であった。

本研究会と同様の支援方式を全国に展開するには、公設試、産業技術センター、産業支援機関、商工会議所、中小機構、中小企業団体連合会など「中小企業支援」が当該機関のミッションである組織がコアとなり(能力とやる気があれば、どの組織でもコアとなり得る)、そとに、地元のITベンダー、システムインテグレーター、情報通信会社、大学の研究者など第三者の有識者が参加して、支援チームを形成し、IoT投資を希望する地元の中小企業に対して助言し、チームに参加するITベンダーのなかから、その企業にIoTを販売する企業か出る、そうすることでチームに参加するITベンダーにインセンティブを与えるといった「地産地消」の形態が望ましい。

ITベンダーなど情報通信会社としては、1社のみであれば、企業に営業訪問しても、通常は追い返されるだけで、なかなか話すら聞いてもらえないという悩みがある。だが、研究会に参加すれば、きちんと自社を中小企業にアピールできる。

また、研究会方式のメリットとしては、①1企業が1企業に対してコンサルティングする形態だと、途中で諦めてしまうことが多いが、研究会方式だと、途中で諦めることができないので脱落しない仕組みである。②公的機関が主催する研究会方式であれば、公益目的の色彩が強く、金儲けで研究会を開催しているのではない、と思うことで、中小企業は研究会に参加しやすい。

さいごに

当研究会は、東京という日本の中央で行ったモデル研究会である。これからは、当研究会で蓄積された運営ノウハウを活かしながら、地方でも同様の取り組みがスタートする。これらの取り組みがうまくいけば、その他地域が追従し、やがて日本全体に広がっていくだろう。

日本は99.7%が中小企業から成っている「中小企業の国」である。その中小金業の生産性を上げなければ、日本全体の生産性は上げることはできない。技術が大きく進化したIT技術を用いた生産伎の向上は、まさに今でなければできないことである。

中堅・中小企業へのIoT導入は、米独と比べ、日本が最も成功するかもしれない。

2018年10月5日 生産性新聞に掲載

2019年8月27日掲載

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