3 ドイツの中小企業海外展開支援体制・日本との違い
3-(4)展示会・見本市
ドイツ人と日本人とでは、展示会・見本市に対する考えが大きく違っている。ドイツ人は展示会・見本市で具体的な商談を行う。そこは仕事をする場所と考えている。海外での展示会・見本市への出展は、海外進出のための最も重要な手段と位置付けている。
一方、日本人は、若い職員の海外研修として考え、名刺交換にとどまるなど海外進出の重要な手段と位置付けておらず、「物見見物・観光・遊び」の一環として捉えている。このように、ドイツ人と日本人とは、展示会・見本市への取り組み方や考え方がまるで違う。
ドイツ人から見た日本人の理解できない行動として、日本人はビジネスの場を、「物見見物・観光・遊び」の場として捉えている点がある。よく日本人は、「ゴルフの場で仕事の話をし、会社でゴルフの話をする」と言われるが、仕事の場で遊びの会話をするなど、ドイツ人には考えられない。
日本の会社では、職員どうしが雑談やおしゃべりをする風景がよく見られる。雑談やおしゃべりをするために会社に出勤しているような人もいる。日本人は、昼間、雑談やおしゃべりをして、夜残業する人が多い。だらだらと仕事をするのである。かつては「宴会部長」などと呼ばれる人もいた。いつもは何もしないが、いざ宴会となると張り切って仕切る人である。だが、ドイツの会社では職場で雑談やおしゃべりなどせず、一生懸命に仕事に取り組み、定時になったらさっさと帰る。残業が当たり前の日本人とは、まったく違う。
日本人は仕事の場を、「物見見物・観光・遊び」の場と考えている人が多いが、ドイツ人は、仕事の場では仕事をするのである。
前回の記事でも、駐日ドイツ商工会議所のマンフレッド・ホフマン特別代表にインタビューした際、「日本企業がドイツを訪問してドイツ企業を視察しても、面白かった、で終わってしまう。観光気分で企業訪問をする。」と不満を言っていたことも、そうした日独の違いを指摘している。
以下にドイツ人に理解できない日本人がビジネスの場に持ち込む「物見見物・観光・遊び」の感覚を紹介したい。
例1
「ご挨拶に伺いたいので時間を取ってください」
「ご機嫌伺いに来ました」
「ご挨拶に伺いました」
ドイツ人は、仕事の話でないのなら、自分は仕事で忙しいので、来ないでほしい。仕事の話でもないのに、忙しい自分の時間を割いてほしい、というのは一体、どういう感覚なのか、と怒ってしまう。
例2
「今日はとっても面白い話をありがとうございました」
「とてもいい勉強になりました」
あなたの勉強のために、自分は忙しい中で、自分の時間を割いたのではない。あなたと今後、仕事の取引につながると思ったから、時間を割いたのだ。それなのに、あなたは最初から、自分の勉強のためだけに、私の貴重な時間を取ったのか、私の話は単に面白いだけだったのか、と怒ってしまう。
例3
日本からわざわざやってきて、偉い人と握手している写真を撮って帰るだけ
会社を訪問し、見て回り、名刺交換し、それっきり
訪問後、何も連絡がない 全然、仕事に発展しない
あの日本人は、遠くから一体何のためにわざわざドイツまでやってきたのか。どうしてそんなくだらないことのために、自分たちはつきあわされたのか、と怒ってしまう。
筆者が、ドイツの現地調査結果をRIETIで発表し始めた頃、それはちょうど、通商白書がドイツ特集をした2014~16年頃、日本企業の間にちょっとしたドイツブームが起き、多くの日本人がこぞってドイツ企業を訪問した。
ドイツ人は、最初は笑顔で受け入れていたが、日本人は自分の会社に、単に、「物見見物・観光・遊び」に来るだけだとわかった後、日本人の受け入れを拒否するという現象がドイツ企業の間に広がった。
最近の傾向はさらに顕著である。仕事の話をするなら受け入れるが、単に視察だけなら日本人は受け入れないと、明確に断られる。ドイツ人も、身に染みて、よくわかったのだ。
さて展示会・見本市に関して、話を戻すと、当初述べたように、ドイツ人と日本人との間では、考え方がまるで違っている。その背景を歴史的な経緯からひも解くと、以下のようであろう。
Messe(ドイツ語)は、東西の通商路が交差するライプチヒで生まれた「人、モノ、金、情報が交流する通商市場」である。それがメッセ産業としてドイツ全土に拡大していった。ドイツ人は、メッセでは、仕事をする、何らかの取引をする、と理解している。
一方、日本は明治時代、西洋の優れた「舶来品」を展示して日本人に見せる「博覧会」からスタートした。日本人は、展示会・見本市では、「物見見物・観光」をする「お遊び場」だと理解している。
ドイツ語のメッセを「展示会・見本市」と日本語訳したところに、日本人の感性が表現されている。
両国で歴史的経緯が違っていたことも挙げられるが、こうした経緯が、その国の国民の感性に合っていたものと思われる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%84%E3%82%A3%E3%83%92
(2025年3月22日 (土) 15:53、UTC)
(以下、続く)