地方の人口減少に歯止めがかからない。人口増減は、出生児数から死亡者数を引いた自然増減と、流入から流出を引いた社会増減により説明される。多くの県ではいずれも減少が続いている。人口増減は地域にどれだけ魅力的な雇用機会があるかに依存する面がある。労働需要の源泉である企業数を都道府県別に推計すると、今後地方にとってより厳しい状況が予想される。
人口の高齢化は創業を減らし、経営者の高齢化は廃業を増やす。各都道府県での経営者の年齢ごとの廃業率、開業率を現在と同じと想定して推計すると、全国の民営企業数は2015年の402万社から40年には295万社と27%減少する。従業者数は5846万人から4598万人へと21%減る。減少率は全国一律でなく、大都市圏への集中度は高まり、地方との格差は一段と拡大する傾向がある。
現在の経営者には団塊の世代が多い。この世代が引退する時期を迎える25年ごろにかけて企業数、従業者数の減少率は大きくなる。その結果、ほとんどの都道府県で一時的に、従業者数の減少率が生産年齢人口の減少率を上回る。特に地方でその傾向は強い。
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全国の人口は15年時点で東京圏の1都3県に28.4%が集中する。だが銀行の貸出額はそれ以上に集中しており、52.3%を占める。預金も相続による子どもへの移転で地方から東京圏の銀行に移り、今では44.5%に上昇した。
人口減少と少子高齢化の悪循環を断ち切るには、これまで以上に地方で集中的に創業支援や事業承継支援に取り組む必要がある。同時に現存企業でも地域の特性を生かし、魅力ある雇用機会の創出に取り組むことが欠かせない。そしてその際、求められるのが雇用を創り出す人材だ。
政府は地域の企業に経営サポート人材や技能を有する人材を供給する「プロフェッショナル人材制度」を始めた。既に約1万6000件の相談があり、約1600件のプロフェッショナル人材の採用が実現した。今後はさらに地方への多様な人材の還流ルートの開拓を推し進める必要がある。
現時点では中小企業の「右腕的な人材」をターゲットにしているが、今後は「事業の担い手」となる事業承継支援や、事業を立ち上げる創業支援についても、対象とするように制度を拡充していくべきだ。商工会議所や地域金融機関、政府系金融機関などはこうした人材の紹介、情報の提供や相談、資金的支援に取り組んでいる。今後は地域と一体となりこうした事業をさらに強化していく必要がある。
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ほとんどの自治体では国の要請もあり、昨年3月までに人口ビジョンや地方版総合戦略を自ら策定し、その実現に向けて取り組んでいる。成果は一朝一夕で表れるものではないが、軌道に乗り出している自治体もいくつかある。それらに共通するのは、官民を問わず、戦略を遂行するリーダーが存在することだ。これまでも国の事業では、地域自らが作った地方雇用創造戦略の実行に資金を提供するとともに、アドバイザーの派遣などにも取り組んでいる。
だが多くの自治体では地域の雇用や産業の創出を担う人材、それらを支援する人材が十分に育成されていない。地域が戦略を実行に移すには、それに即した多くのプロフェッショナル人材が必要だ。欧米では、地域の雇用戦略に必要な人材を意識的に育成し、活躍の場を用意してきた。
日本でも政府は地方創生の本格的な事業展開に必要な人材を育成・確保するため、官民を挙げて「地方創生カレッジ」を立ち上げ、実践的な知識をeラーニング講座で提供している。また必要に応じて実地研修も効果的に取り入れ、知識やスキルを習得できるように工夫している。
客観的なデータを活用し効果的な戦略を立て、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回していける人材を育てようとしている。具体的には(1)地域経営の視点や資金調達手法、地域産業振興などの総合プロデューサーに求められる講座(2)観光・DMO(観光地経営組織)、まちづくり、農業活性化、ローカルブランディングなどの分野別プロデューサーのための講座(3)地域おこしと商業、まちづくり・ひとづくり・しごとづくり事例などの地域コミュニティーリーダーのための講座――が開設されている。
新たな職務を担うには、新しい視点と知識・スキルが必要だ。何より重要なのは地方創生に向けた熱意と信頼だ。
だが自治体では人事異動が頻繁に実施され、雇用・産業部門での交代も早い。戦略策定時の人材が他の部署に異動してしまうこともある。頻繁な人事異動では前任者のやり方を踏襲し、慣れたころに異動になる。これでは責任を全うできず、問題は先送りされる。順送りの人事異動では戦略の中心となる産業の技術や特性を熟知したうえで、どのようにして産業を創出していくか戦略さえ具体化できず、関係者の信頼を得られない。
大企業の地方の事業所や支社にしても、幹部は転勤により頻繁に変わることが多い。企業でも地域に愛着を持ち、地域に貢献する人材は育たない。幹部候補生の採用に当たり、本社の一括採用に加え、地方採用枠の拡大も検討すべきだ。自治体も企業も、地域に根差したリーダー人材の育成のため、人事異動や転勤制度を見直す必要がある。
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合計特殊出生率は近年、わずかながら回復した。だがこどもの9割以上を産む20〜30代の女性の数は減り、年間出生数は減少傾向が続いている。地域により出生率には大きな差があり、しかもその差は拡大傾向にある(図参照)。
出生率は未婚率・初婚年齢と「有配偶出生率」により規定され、所得や経済、就業環境、非正規比率、通勤時間、保育環境、育児費用など様々な要因から影響を受ける。中でも「働き方改革」が大きく影響する。週60時間以上働く雇用者の割合が高い地域、通勤時間の長い地域、出産後に女性の有業率が大きく低下する地域、保育所の整備率が低い地域で出生率は低い。女性の人口移動は近年、男性以上に活発になっている。以前のように親元に残らず魅力的な雇用機会の多い地域に移動する人の割合が高まっている。
政府のまち・ひと・しごと創生会議などの場では、国全体の支援策に加え、地域ごとに自治体、労使団体、金融機関、大学などの地域関係者からなる「地域働き方改革会議」を創設し、地域の実情に応じた働き方改革に取り組み、生産性を上げ、採用力を高めることを主張してきた。
これを受け、働き方改革に意欲的に取り組む地域が出てきた一方で、認識や取り組みがなお不十分な地域もある。ワンストップの相談窓口を設けるのみならず、企業に出向いて相談を受ける「アウトリーチ型」の支援も必要だ。
政府は県単位の「地域働き方改革会議」の活性化や財政支援強化に取り組むべきだ。とりわけ企業に出向くアウトリーチ支援に不可欠な「働き方改革アドバイザー」については、現状は社会保険労務士や中小企業診断士が担っているが、質量ともに足りない。トータルでアドバイスできる人材が求められる。国として新たな資格制度を設け、アドバイザー人材の育成に取り組んでいく必要があるだろう。
地域づくりは人づくりである。責任ある信頼される様々なプロフェッショナル人材が求められている。
2017年9月28日 日本経済新聞「経済教室」に掲載