デフレ(物価下落)はなかなか終息しないが、一方で、長く需要不足が続いていた国内総生産の需要・供給のギャップはプラスに転じ、需要超過の状態になった(グラフ参照)。
これでデフレが続く原因がますますわからなくなった。デフレは需要不足の原因であり、またその結果でもあるというのが、通説的な理解だったからだ。デフレが続くと名目金利が低くても実質金利は高くなり、設備投資の需要が減り、経済は需要不足になる。需要が不足してモノが売れないと、物価が下がってますますデフレがひどくなる。これが通説的なデフレ持続のメカニズムだった。
ところが、需要不足が解消してきたのに、デフレは続いている。これは、単にデフレ解消が少し遅れているだけなのかもしれない。しかし、そうでないとすれば、デフレが需要不足と関連するという理解に間違いがあったことを示しているのかもしれない。
デフレが需要不足と無関係なら、どのような害を経済に及ぼしているのか。新古典派経済学の立場からは、「なんの害もない」という説もありうるが、実感とは遠い。
デフレの害は需要よりも供給サイドにあったのではないか、という仮説がある。最近の研究で、貨幣と銀行信用が共存する経済では、デフレが、金融機関による信用供与やリスク分散の働きを阻害する、という可能性が指摘された(Diaz, A. and F. Perera-Tallo "Credit and Inflation under Borrowers' Lack of Commitment", paper presented at 2007 SED Meeting)。
デフレとは現金の価値が上昇することだから、デフレ下では債務不履行の誘惑が高まり、銀行貸し出しのリスクが大きくなる。その結果、信用が適切な量だけ供与されなくなり、リスクの分散ができなくなる。リスク分散ができないと、ハイリスク・ハイリターンの企業、特に中小企業は事業資金が得られなくなり、経済の生産性や活力が下がる。これがデフレによる供給サイドの弊害だ。
デフレの弊害が供給サイドにあるなら政策的処方箋も違ってくる。低金利で需要を刺激するよりも、むしろ、金利を上げてリスク分散をやりやすくするほうが、経済全体の生産性と活力を高めるのに有効かもしれない。
「週刊ダイヤモンド」2007年8月4日号に掲載