Data Focus(週刊ダイヤモンド連載)

公正な市場ルール作りが財政再建には欠かせない

小林 慶一郎
上席研究員

アイフルへの行政処分や耐震強度偽装事件は、ルールなき市場競争が、不公正な結果をもたらすことを改めて浮き彫りにした。

消費者金融では、契約内容を完全に理解できないお年寄りや障害者に対し、土地を担保に無理な貸し付けを行ない、返済できなくなると取り上げるという悪質なやり方が横行していた。不公正なやり方で手にした不当利益を被害者に返還させる法的仕組みがないことも問題になった。

耐震強度偽装事件では、耐震強度偽装そのものに対する責任追及は遅々として進んでいない。耐震偽装物件を建設し販売した業者の資金が散逸して被害者救済ができないために、穴埋めとして多額の税金が投入される、というのも公正さの観点からは、納得しにくい。

こうした事件だけでなく、格差社会の議論が強まっていることにも象徴されるように、「市場競争は公正な結果をもたらさない」という不信感が広がっている。このような流れは、特に今後の財政再建にとっては大きな問題だ。

市場の競争が不公正だ、という信念は、「市場競争の結果は運やコネによって決まる」と信じることだ。運やコネによって所得が決まるなら、努力する人は減る。自力で頑張るよりも、国の補助に頼ろうとする人が増え、財政の支出も長期的に増えていく。

上の図は、社会保障関係の財政支出(対GDP比)と、「所得は運で決まる(市場は不公正)」と信じる人の割合との関係を示したものである(出所:Alesina, Alberto, and George-Marios Angeletos (2005). "Fairness and Redistribution." American Economic Review 95 (4) :960-80.)。

「市場は不公正だ」と信じる人が多い国ほど、財政支出が多くなっている。アレシナとアンジェレトスによると、先進国かどうかというような属性を考慮しても、この結果は変わらない。また、この研究では、「市場は不公正だ」と信じる人ほど、大きな政府を支持する傾向を持つことも示されている。

多くの国民が公正だと納得できるような市場ルールをつくることは、それぞれの業界の小さな問題ではすまない。それは、小さな政府路線や財政再建への国民の支持をつなぎとめ、マクロ経済安定と将来世代の負担を軽減する前提条件ともいえるだろう。

「週刊ダイヤモンド」2006年5月20日号に掲載

2007年9月5日掲載

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