今年、日本との国交樹立20周年を祝うブータン。「国民総幸福量」とよばれる公共哲学を国造りに実践して、長い。人間は何よりも幸福を望む。幸せの追求には、衣食住の安定と共に、人それぞれの心の和、家族との和、地域社会との和、自然との和、そして母国の歴史と文化に属するという自己認識の和が欠かせないとの考え。ブータンの指導者は常識だと笑う。間違いや彎曲迂回は数多くあったにしろ、その常識を本気で貫いてきたところが、非常識。
「政治とは、国民の幸福追求を可能にすること。全ての政策は、幸せへの公共的障害を取り除くためにある。幸福は全体論だから、行政は民の視点から横割りに。不幸せな民は国家を不安定にする。だから、国民の幸せは国家安全保障の基礎だ」と、真剣だ。
幸せは物のみでは得られないから、高度成長を目的とはしない。国造りの一手段と見て、前記の「和」とバランスがとれる経済成長を求め続けてきた。今に言う持続可能な成長と同じ思考。それを世界に先駆けて実践したブータンの成長率は高い。約半世紀前は物々交換の経済が、貧困解消まであと一息だ。
教育政策も、目のつけどころが違う。教員の人格と価値観とリーダーシップを重視して、教員養成に力を入れる。教師は次世代を形成し、国を変える。教師用指導書はだから生徒の理想像となれと説く。険しい山路を1週間歩いて入る寒村の小学校。先生は1人きり。でも彼の目は国造りの情熱に燃え、口癖は「答えより質問が大切だ。自分の頭で考えよう」。惚れ惚れした。
去年の国勢調査で、国民の97%が幸せだと答えた。常識を本気でやる政治姿勢。政策効果を待たずして、民を幸せにする。
2006年12月2日 日本経済新聞に掲載