あすへの話題

心の問題

西水 美恵子
RIETIコンサルティングフェロー

プロジェクト融資の仕事は世銀の花形で予算もつくことから、教育、インフラ、農業などの部門融資部長は主導権を競う。開発援助の仕事は、何ひとつとっても多様な専門分野にまたがるから、誰がリードしてもいいのだが、却ってそれが難となり酷い争いにさえなる。この傾向を消す術を部下700人と話し合った時、いっそのこと部門別の区切りをなくそうかと言ったら、組織改革は癌に絆創膏だと諭された。部門を越えるチーム精神を人事の中心に置かなければできない「心の問題」だという。

組織改革よりもインセンティブ(誘因)を真剣に考え、チーム精神を採用から訓練、昇進、能力・業績給、果ては解雇まで全ての基準にすると決めた。上が本気で実行せねばダメだと部下に言われ、なるほどと、部長グループを経営チームに変えると固く約束した。

チームという言葉はよく使われるだけに誤解が多いと知った。定義はいろいろあるが、本物を見極めるためには特に5つのチーム性格が役に立った。(1)指揮権に執着せず、状況に応じてリーダーシップを分かちあう。(2)個人に責任はなくても、チームの共同体責任を快く負う。(3)自発性に勝れ、チームの目標を自分たちで設定して行動に移す。(4)正直な会話を好み、幅広く開放的な議論を基に問題を解決する。(5)仲間との仕事を楽しみ、よく笑い、チームの集いを待ち遠しく思う。

終わりのない仕事だったが、被融資国の国民から視点を外さず、予算は取り合うより譲り合い、よく働きよく笑う経営チームとの日々は楽しかった。あのチームを思い出す度、母国の縦割りな政策を憂う。国民の生活は役所別になど区切られていない。

2006年11月4日 日本経済新聞に掲載

2006年11月4日掲載

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