あすへの話題

雷龍の国と地球の芽

西水 美恵子
RIETIコンサルティングフェロー

「雷龍の国」(英名ブータン)を旅してきた。滋賀県近江八幡市に本拠を置く秋村組グループの1社「地球の芽」の若者たちと。グループの使命は「地球と人類の美しい秩序と節度を探求すること」。持続可能な街づくり、環境づくりに携わる。

地球の芽の夢は大きい。住民が生き生きと暮らし、人間として真に成長し、自然を尊重し、活発なビジネスが人々を刺激する「エコ村」づくり。世界のインスピレーションになろうと、夢の実現をめざす。

雷龍の国の夢も大きい。国民総幸福量という名の公共哲学にもとに、国民が幸せを追求し心の安らぎを得る国造りをめざす。秋村組グループとブータンはビジョンと倫理価値観が似ている。社員をその国の村に滞在させ、インスピレーションを与えたい、リーダシップの原点を掴ませたいという社長の熱い思いに動かされた。

タラヤナ財団(非政府組織)の協力を得、ブータン中央にある国立公園内の在所ナブジ村から招待を受けた。険しい山路を2日歩いて入村した私たちを、村人は家族として温かく迎えてくれた。電気も上下水道もない生活。自給自足、物々交換の生活。寝起きを共にし、稲作に励み、喜怒哀楽を分かちあいながら、村人は大きな英知を授けてくれた。家族の和、村の和、大自然との和は、我ら人間の塩。幸せに生きるために欠かせない宝だと。

命あるものすべてに優しい村人との別れは辛く、物が溢れる都会に戻った違和感もまた辛く、内なるものを見つめ直す時間が訪れた。若者たちの目の奥に情熱の火が点るのを見た。頭とハートがピーンと繋がる音を聞いた。地球の未来を担う若者たちが、ひと回り大きく見えた。

2006年7月15日 日本経済新聞に掲載

2006年7月15日掲載

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