あすへの話題

大自然の小さな秘密

西水 美恵子
RIETIコンサルティングフェロー

カリブ海に浮かぶ島国を本拠にしてから2年になる。英国領バージン諸島。国民はNature' s Little Secrets(大自然の小さな秘密)と誇る。普通の世界地図には載っていない。北緯18度、西経64度あたりに、大小約60の島々から成り、あわせてやっと小豆島くらいの面積だ。ほとんどが無人島で「宝島」物語のモデルになった島もある。険しい山脈がどっぷり海に浸かってできた国と想像するといい。

1493年、コロンブスが「発見」した時、群青の海に連なる翡翠の島々の美しさに、欧州伝説にある処女聖人ウルスラ王女と、彼女と共に殉死した多くの処女を連想して、バージン諸島と名づけた。国旗にラテン語でVigilate(用心深く)とある国標の上に、聖ウルスラがすらりと立つ。彼女の諭しの通り、2万人少々の国民はとても用心深い。8割が、植民地時代に綿花と砂糖きび農園で過酷な労働をしいられたアフリカの人々の子孫。あたりまえだろう。

戦後、大英帝国崩壊の時、独立熱に浮かれる世情をしりめに、英国海外領地として小国の活を求める道を選ぶ。外交と防衛は英国に、内政は自治と選択。独立貨幣は小国に損と拒否。英ポンドより、地理的に優位な米ドルを通貨とした。貧困に喘ぐ我が国の宝は民と自然のみと、教育や環境保護を重視。観光で大飛躍を成すが、一部門に偏るリスクを案じ、オフショア金融に注目。英領の安心と米ドルの特典に良いガバナンスを加え、今は資産額世界1、2を競う。

でも一番好きなのは、ポンコツ車を運転する首相が「やあ、心配事はないかい」と手を振ってくれること。身近に感じる良い政治は、民に大きな幸せをもたらす。

2006年7月8日 日本経済新聞に掲載

2006年7月8日掲載

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