社会崩壊・経済崩壊と医療崩壊の狭間で:見たくない真実に向き合う(動画)

関沢 洋一
上席研究員

医療崩壊を防ぐために非常事態宣言で感染者の増加を抑え込んでも、ワクチンができない限りは感染拡大を先延ばしにするだけで根本的な解決にはならない−この「見たくない真実」について、関沢洋一上席研究員が解説します。

こちら新型コロナウイルス特設サイトの関沢上席研究員の以下のコラムも併せてご覧ください。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。

プレゼンテーション資料 [PDF:805KB]


感染症の2つの基本法則

感染症には、基本法則が2つあります。一つ目は、短い期間に複数の人にうつす、倍々ゲームといいますが、この式をみますと、2.5x2.5x…というのを仮に20個、つまり一週間に1人の人が2.5人ずつうつしていって20週間続くと数はどうなるかというと9094万人、つまり単純に倍々ゲームが続いていくとこれだけの人がいつのまにか感染してしまう、これが感染症の基本法則の一つです。 二つ目は、一方でいったん感染して治ると、少なくとも当面の間は再び感染することがないし、他人にうつすこともないというもので、ここでは免疫の法則と呼んでいます。

これ(図1)が基本法則の1ですが、最初は黒丸が1個しかないのがどんどん増えていって、どんどんたくさんの人にうつっていく、という流れになります。それで国民の大部分が感染してしまいます。それでは永遠に感染が続くかというと実はそうではなくて、基本原則の2、免疫の法則というのがあって(図2)、この緑の部分、いったんかかったけれど治った人(緑の人)がいると、黒の感染者がうつそうにももう緑の人にはうつすことができなくて、うつせるのはこの白い人だけです。右下の例でいきますと、周りにいる人は感染した人ばかりなので、もううつしようがない。もはやこの(未感染の)人はこの(感染者の)人にたまたま会ったりしないとうつることがない。ある程度感染が進んでいくともう感染は進まなくなる、そういうことになります。

これを全体のグラフであらわすと、こんな感じになります。ワーッと増えてそのあと減っていく、これが感染のイメージです。実はこれは、何らかの対策を講じたからこうなるというわけではなくて、何の対策も講じなくてもこういうグラフが描かれる。ここに出てくるグラフはいま感染している人のグラフだけですが、実はもう2つ知っておくべき変数があって、このオレンジの部分(感染者)以外に、青い部分(無免疫者)、灰色の部分(感染経験者)があります。

例えば、このグラフで言うと、もともとは1億人の感染していない人(青色)がいて(もともと新型コロナウイルスの場合は誰も免疫をもっていないと想定されている)、徐々にこういう形(オレンジ色)で感染した人が増えていく。そうすると今度は灰色の部分、いったん感染して治った人が増えてきて、だんだん感染させることができなくなり、こういう感じで(オレンジ色の)感染者は減っていきます。つまり、オレンジ色だけではなくて、青色と灰色の3つの変数がさっきのこれ(図2)を作っているわけです。

非常事態宣言とは何か

次に非常事態宣言が何をやっているかというと、こういう形で壁を作ると(図3)少なくともこの壁がある間はウイルスをうつすことができなくなる。この壁は文字どおりの壁ではなくて、実際には人と人とが接しなくするようにする、人と人との間に距離を置くことが壁にあたります。ただしこの左下と右下には壁のないところがある。これはどういうことかというと、たとえば一つの家族で一緒に過ごす場合は壁がない。そうすると壁の中ではうつすことがあるわけです。したがってこの場合、これが一つの家族とすると、家族の外にはうつすことはできないが、家族の中ではうつすことができるということになります。たとえば非常事態宣言を1カ月くらい続けてこういう壁を作ると(図4)、こちらの人(一人で壁の中にいる人)は誰にもうつすことがなくそのまま感染症が治って他にもうつさないで済むのですが、こちらの人(2人家族)は家族の中でうつされた人がまだ感染している(治っていない)ので、壁を開けるとこの人がうつし始めることになるのです。

仮に壁が完全に成功して(感染者が)誰もいなくなったとしても、海外からまたウイルスが持ち込まれる可能性があるので、脆弱な状況になっていることになります。この人(黒丸の感染者)がまだいると、2−3カ月くらいすると、今と同じような感じで感染者が増えてくるということになります。

強力な隔離体制、たとえば非常事態宣言のような話ですが、このような強力な対策で、いったい何を守ろうとしているのか。直感的には、人々の感染を防ごうとしていると多くの人は思うのですが、多分それは主たる目的ではなくて、感染そのものを防ぐというよりはむしろ、感染のスピードを遅らせて感染のピークを下げて医療を守ることが主たる目的ということになります。

これはどういうことかというと、これ(青色)が対策のない状態ですが、不思議ですが、例えば感染スピードを半分に遅らせる、たとえば元々は週に2人うつしているときに週に1人にしかうつさないように感染を抑制すると何が起きるかというと、このグラフがこういうグラフ(青色)からこういうグラフ(オレンジ色)にカーブがなだらかになるのです。

普通の人の頭だと、すごく頑張って感染を抑制しようとすると、さっさと感染が終わるんじゃないかと思うかもしれませんが、実は逆のことが起きていて、これ(青色のグラフ)は感染対策がない場合で結構早く終息したわけですね。これに対して真面目に対策に取り組むと、感染が徐々に増えていって徐々に減っていくんですけど(オレンジ色のグラフ)、かなり時間がかかる、真面目に対策を講じれば講じるほど長くなるんです。

なぜわざわざこういうことをするかというと、医療のキャパシティというのがあって、この場合赤い線が医療のキャパシティなのですが、このキャパシティの間に(感染者数が)収まっていれば、例えば人工呼吸器のような人を守る医療器具が使える医療スタッフ、人工呼吸器、さらに付随する薬品とか病床といったものの最低線がキャパシティで、そのキャパシティを超えると人工呼吸器が使えなくなって、その結果重症化した人は人工呼吸器を使えなくなって、本来であれば死ぬことが無かった人が死んでしまう。対策がない場合、ここ(青色のグラフの感染者数のピーク)とここ(キャパシティ)の間の差が大きくなってしまうので、本来であれば人工呼吸器が使えて助かった人たちが使えなくなって死亡してしまうというリスクがあります。

対策をして、このライン(キャパシティ)までで感染者数をうまく収めることができれば、医療そのものは守ることができるわけですけれども、そのかわり終息までの時間が長くかかる、しかもその間に人々が感染しないわけですよね。したがって免疫がないわけです。そうすると、対策を長引かせてゆっくりと免疫をつけるか、あるいはワクチンができるまで待たなければいけない。つまりこの厳しい対策をずっと続けなければいけないという可能性が出てくることになります。

社会崩壊・経済崩壊と医療崩壊との狭間で

これ(図6)がより今の話を分かり易くしたつもりですが、対策がない場合がこういう感じで急速に対策が増えて免疫がある人が増えて急速に減っていく(青色グラフ①)。緩い対策を実施する場合ですと、ピークが遅くなって、そのかわり一定期間におけるピークの高さが緩くなって、その分対応をしやすくなるわけです(赤色グラフ②)。さらに、強力な対策を推し進めてほとんどの人の移動を減らすようにする、人と人の接触を減らすようなことを行うと、緑のライン(グラフ③)がこのへんにあるのですが、この期間中は感染者数が増えない状況が続く(グラフが横線になり感染者が出ない)ということでこの間は医療が守られる。ところが、これには1つ問題があって、この緑の対策をとっていて途中で疲れたといってゆるい対策にかえると何が起きるかというとこの赤い線と同じようになる、何が違うかというとタイミングがずれるだけで、結局トラブルの大きさは変わらなく(紫色グラフ④)、言い方をかえると今すごく頑張って厳しい態勢を取ってもらって秋くらいになって、やっぱり疲れたといって対策を緩めると、結局ピークがずれるだけで、被害はあまり変わらない。

それでは、この強力な対策をいつまで続ければいいかというと、ワクチンができるまでになります。ワクチンがいつできるかというと、12カ月とか18カ月と言われていますが、これ自体があてになる情報ではないので、もしかするともっと早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれない。キャンブルみたいなものです。では、どうするのかということですが、実はあまりいい答えがあるわけでなくて、強力な感染予防対策、人と人の接触を避けるソーシャルディスタンスを置くことが感染予防対策になるのは間違いないのですが、これを長く続けるというのは社会や経済にとっては相当なマイナスになる、例えば子供たちが学校に行けないこともありますし、様々な経済活動が行われなくなる。人間というのはどうも群れを作って生きる動物のようで、群れを作るなという話はかなり厳しいだろうということです。

そうすると何が求められているのかというと、社会と経済の損失を最小限に食い止めながら、医療への需要が供給を大きく上回る事態を避ける(医療崩壊を防ぐ)こと。対策がない状態から対策のある状態にする(感染者のピークを下げる)には、それなりに社会に経済に負担をかけるので、なんとかうまくバランスを取りたいところではあるのですが、医療のキャパシティを増やすことが結構大変みたいなので、どうしても需要と供給のバランスが取れない。ですので、今のところ残念ですが、答えが示されていないということになります。

私の発表は以上になります。

Q&A

Q:社会的距離をとって壁を作っても、壁を外した瞬間に感染が再び蔓延するのであれば、ワクチンができるまでは根本的な解決はないことになるのでしょうか。

A:そういうことになると思います。ワクチンができれば別ですし、特効薬のようなものができて感染してもすぐ治せるのであれば良いのですが、そうでなければみんなが脆弱な状態のままなので、社会的距離を置いた状態を続けるか、一時的にロックダウンを解除して経済活動を再開させ医療の限界に到達しそうになったらまた緊急事態宣言を出すという、もぐらたたきのようなことをしないと、うまく続けられないだろうなと思います。

また、中国や韓国の政策が近いかもしれませんが、強い監視体制を敷いてスマートフォンを使って自分の近くに感染者がいるかをわかるようにする、見つけたらすぐに隔離するようなことをしらみつぶしにやるというのも選択肢の1つです。

Q:中国は、基本再生産数を1以下にするために徹底的に感染者を見つけ出して見つけたところから次へつながらないよう隔離する、つまり早期発見・早期隔離で再生産する確率を減らして1以下にするという、かなり大胆な取り組みをしていると思うのですが、それは副作用があるにしても、一定の成果を収めているということでしょうか。

A:私はそうは思っていません。中国がどうやってあそこまで封じ込めているのかについてはよくわかりません。

先ほど選択肢は3つと申し上げましたが、4つめの選択肢もなくはなくて、スウェーデンが実際に取っているのですが、ある程度人々を感染させてしまうという政策です。

感染症に取り組む対策としては2つありまして、1つは特に東アジアの国々でよく見られるのですが、かなり強力な対策を取って人と人との距離を取り続け、それによって感染させないようにし、ワクチンができるまで待つというやり方。もう1つは感染をある程度認める方法で、新型コロナウイルスは、高齢者は重症化するけれど若者はあまり重症化しないことが分かっていて、したがって若者が感染するのを許容し、その代わり高齢者は外に出ないようにお願いする。それによって高齢者は罹らないように、若者には感染してもらって集団免疫を作ってもらう、そういう考え方がありえます。

最初イギリスはこの政策を考慮していたのですが、危険だということで行われなくなりました。ところが、実はスウェーデンは今でもこの政策を取っていて、高齢者は家の中に籠るよういわれていますが、高齢者以外は外に出ることが許されており、集会も50人以下は禁止されておらず、小中学校は開校されたままになっています。つまりある程度ゆるやかに感染していくことは認めるというやり方をとっています。おそらく今このやり方を取っている国はスウェーデンだけで、このやり方に対してはスウェーデン国内でも強い批判がありますし、アメリカのトランプ大統領は「スウェーデンは無謀なことをやっている」と攻撃していますが、今のところ方針を変える予定はないようです。

Q:PCR検査をもっと全国民的に広くやって、それで暗数(見えない数)になっている陽性の方をどんどん割り出してはどうか、つまり検査をもっと広くやることでまだ見逃しているような患者さんを早く見つけて対策を打つべきだという意見もあると思うのですが、そこの部分に関してはいかがでしょうか。

A:PCR検査については、検査をする医療スタッフの負担が重くなってしまう心配があって、もしかしたらやった方がいいのかも知れないですが、正直言って確信がないです。

最近世界的にはむしろ抗体検査という血液を使った検査への期待が高まっていて、なぜ抗体検査に期待が集まっているかというと、この検査はいま病気に罹っているかどうかを知るのではなくて、いままでに罹ったかどうかを知ることが目的です。PCR検査はいま罹っているかどうかを知る検査なので、かなり検査の意味が違っているというところがあって、なぜ抗体検査が必要かというと、いくつか理由があるんですけど、一つはPCRと違って血液を採取すればいいので、医療関係者の負担が、感染するリスクが格段に少なくなるというメリットがあること、二つ目はいったん感染した人は当分の間は人にうつしにくいだろうといわれていて、そうすると感染して治った人に「免疫証明書」みたいなものを出すことによって、その人たちは働いてもいいということにする。感染していない人は外に出ると感染リスクがあるわけですが、一回罹った人であれば外で働ける。例えば、私自身について言うと、ちょっと怖くて今は床屋さんに行けないんですけど、もし床屋さんがそういう感染証明書のようなものを持っていれば、安心して行くことができる、そう言ったことがあったりする、ということです。

もう一つ抗体検査にメリットがあるとすると、今までに人口比に対してどれくらいの人が罹ったかを知ることができる。ランダムサンプリングで、例えば、一万人くらいの人口だったら100人くらいにランダムにこの検査をすることによって、どれくらいの人が罹ったかがわかる。そうすると、この数字がもしかすると意外と大きい可能性もあって、というのは、この新型コロナウイルスというのは感染しても症状が出ない人が実はかなりいるのではないかと言われていて、一説では5割くらいいるという指摘があります。本当の数字はよくわかっていないので、抗体検査をすることで、症状がなかったりあるいはすごく軽かったりした人も含めて、本当に感染した人がどれくらいいるかを突き止めることができるのではないかという期待はあります。

ただこれはあくまでも期待なので、実際は最近の報道を見ると、もともと症状がなかったような人だと、そもそも抗体検査で陽性にならないのではないかという話もあるので実際にそれが使えるかどうかについては慎重な判断が必要かとは思います。

Q:わかりました。ありがとうございます。抗体検査が行われて陽性になれば、その方は先ほどの緑、つまり安全というかバリアになる人になるということですね。そういう人たちが増えていけば…

A:100パーセントではないかもしれないですし、きちっとした検証が必要だと思いますが、期待しているのはそういうことです。

2020年4月16日掲載

この著者の記事