基金創設と一時的な規制緩和の重要性:新型コロナウイルス関係

関沢 洋一
上席研究員

新型コロナウイルスを巡って緊迫した状況が続いている。今後の対応の中心は、感染者の激増に直面する医療機関における重症者の対応になると思う。ここでは、基金創設と一時的な規制緩和の重要性を述べることとした。

基金創設の重要性

ここでいう基金とは、新型コロナウイルス対策のために自由に使えることができるお金が、お金を必要とする部局に集まることを意味する。ここでいう部局は公的なものに限らず、たとえば、都道府県や市町村の医師会が含まれる。今後起き得る話として、開業医やそこで働く看護師などを新型コロナウイルスのために動員しないといけないかもしれない。あるいは、実際に海外では起きていることであるが、様々な医薬品が不足して新型コロナウイルスとは関係ない医療機関などから調達しないといけなくなるかもしれない。

ボランティアでやってもらえばいいという話もあるかもしれないが、現実にはほとんどの人々は収入を得ないと暮らしていけないので、お金を使って処理することがどうしても必要になる。たとえば、開業医に支援してもらう場合には、一時的に医院を閉業する代わりに補償金を払うような対応が必要になる。

この話は一見簡単そうだが、政府や地方公共団体をはじめとする公的組織だと簡単にはいかない。公的組織のお金の支出は、人を信用できないという発想に基づいて行われているため、数万円の支出でも細々とした書類を書いて決裁を得て初めて実現するようになっている。100万円以上の支出だと入札が原則として必要となっている。

多くの場合、担当する人々も、緊急時だからルールを忠実に遵守したらかえって損害が大きくなることはわかっているが、職務上ルールを守らないといけない。そうすると、必要な支出が行えなくなったり時間がかかったりする。

上述のとおり、基金とは自由に使えるお金ということで、責任者の判断で必要なところにお金を支出できるようにしてはどうかというものである。チェックは事後的に行われることとなるが、不正支出でもない限りは裁量が尊重される。

最近、RIETIでもこのことを象徴する出来事があった。速やかに翻訳して人々に伝えたい英語で書かれたコラムがあったのだが、翻訳するためには外注する必要があって、しかも相見積もりに出す必要があるというルールになっており、それでは時間がかかり過ぎるということで、管理職が休日を使って自ら翻訳した。相見積もりのような制度は、平時には仕方ないかもしれないが、新型コロナウイルスの蔓延時のような、瞬時の対応が求められたり関係者の疲労を少しでも減らしたりすることが必要な時には大きな問題になる。

一時的な規制緩和の重要性

お金に限らず、特に医療関係では様々な規制が現場の迅速な対応や感染拡大の足枷となることが懸念される。たとえば、人工呼吸器などの医療機器を医師しかルール上は扱えないために熟練した看護師や臨床工学技士であれば実際には対応できるのに身動きがとれない、治療にあたる医師が死亡診断書を自分で書かないといけない、遠隔診療を初診では行えないために院内感染が増える、といったことはないだろうか。

様々な規制にはそれなりの理由があることはある程度はわかっているつもりだが、新型コロナウイルスの感染者が増えてこれらが本当に障害になりそうであれば、あらかじめ一時的に規制を緩和できないだろうか。あくまでも期限付きの対応ということにすれば、関係者も受け入れやすくなるのではないだろうか。

終わりに

お金がないとか、お金があっても自由に使えないとか、規制があるためにできることができない、そのために救える命が救えなくなる、というのは避けたい。

2020年4月3日掲載

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