ざっくり3分解説

政策とコミュニケーション

佐分利 応貴
国際・広報ディレクター

政策はコミュニケーションに始まりコミュニケーションに終わる

一般的に、社会問題の解決には「問題の発見」「問題の定義」「対策の実施」「評価・退出」の4つの段階が必要ですが、どの段階にも必要なのがコミュニケーションです。

社会でどんな問題が起きているかを知るためには、現場の声を「聴く」コミュニケーションが必要ですし、自然災害のような問題については、多くの人に問題を知ってもらう「伝える」コミュニケーションが必要です。「問題の定義」とは目標設定(例えば2050年までにカーボンニュートラルを達成するなど)であり、関係者が目標を合意するためには情報収集や話し合いといったコミュニケーションが必要です。対策を実施する際には、政府の政策を知ってもらうコミュニケーションや政策の不具合に関するフィードバックのコミュニケーションが必要ですし、対策を評価して終了するためには、問題が解決したかどうかを確認するためのコミュニケーションが必要です。「政策はコミュニケーションに始まりコミュニケーションに終わる」ともいいます。

一生使える「ジョハリの窓」

コミュニケーションを考える上で役に立つのが心理学の世界で有名な「ジョハリの窓」(図1)です。これは米国の心理学者ジョセフ・ルフト (Joseph Luft) とハリントン・インガム (Harrington Ingham) が考案した「対人関係における気づきのグラフモデル」といわれるもので、自分に関する情報を、①自分も周りもわかっている開放の窓(名前とか)、②自分はわかっていないが周りはわかっている盲目の窓(チャックが空いてるとか、セクハラしてるとか)、③自分にはわかっているが周りはわかっていない秘密の窓(思っていても空気を読んで言わないこととか)、④自分も周りもわかっていない未知の窓(実は背後霊に守られているとか)に分類します。

図1 ジョハリの窓
図1 ジョハリの窓

この「ジョハリの窓」は対人関係のモデルですが、友人、恋人、家族などの人間関係以外にも、さまざまな分野に応用できます。組織にも応用ができ、コミュニケーションが悪いと「社長も社員もわかっている」①がどんどん小さくなっていって、社長「なんで業績が上がらないんだ!」社員「こんな商品が売れるわけないじゃないか!!」となってしまいます。不祥事が起きた会社の多くは、会社の問題が社長や会長に共有されない(あるいは共有しようとした人が追い出される)風土があったことが指摘されています。

コミュニケーションは社会問題解決の万能薬

“A problem shared is a problem halved.”(問題が共有されたら半分解決したも同じ)という西洋のことわざがありますが、これは社会問題でも同様です。別の言い方をすれば、共有されない問題は解決ができません。問題を共有する、①を大きくするためには、問題を多くの人に伝えること(①が増え、③が減る)と問題について人々の声を聴くこと(①が増え、②が減る)と、が必要です(図2)。

図2 開放の窓(open self)を大きくするには
図2 開放の窓(open self)を大きくするには

このために行われるのが政府広報・広聴ですが、グローバル化の進展やSNSの普及に伴い、政府広報・広聴も進化を続けています。コミュニケーションの基本は「伝達」「理解」「納得」ですが、どうしたらターゲットにメッセージを届けることができるのか(ホームページに掲載するだけでは届きません)、どうしたら理解してもらえるのか(難しい役所用語で書いてあってもわからない)、どうしたら納得して行動してもらえるのか(納得しないと人は動かない)についての工夫が広がっています。あるいはまったく逆に「意識しないで行動してもらう」行動経済学のナッジ理論の応用なども(注1)。

若手職員の活動がすばらしく、ユーモアたっぷりの動画で有名な農林水産省のBAZZ MAFF(バズマフ)(注2)、政策をわかりやすく伝える九州経済産業局のバーチャル広報職員「九州あおい(注3)」ちゃん、霞が関若手による自主的勉強会「霞が関広報の会」など(注4)、次々とプロジェクトが立ち上がっています。政府広報・広聴のトップである四方敬之内閣広報官は個人の英語のTwitterアカウントに2.5万人のフォロワーがいるとか(注5)。広聴についても、Twitterを分析することで、これまでは政府に届かなかった「声なき声」を集めることが可能になりました(注6)。

新型コロナの規制緩和により、街に飲みニケーションが少しずつ戻ってきました。「コミュニケーションは問題解決の万能薬」。政府のコミュニケーション能力のさらなる進化に(ちょっと心配しつつも)期待したいと思います。

脚注
  1. ^ EBPMシンポジウム直前インタビュー 大竹文雄「EBPMを日本に根付かせる—ナッジ活用のすすめ—」
    https://www.rieti.go.jp/jp/special/af/081.html
  2. ^ RIETI Highlight 82号 p.42 政策インタビュー 「農林水産省 BUZZ MAFF(ばずまふ) - SNS発信プロジェクト」
    https://www.rieti.go.jp/jp/about/Highlight_81/Highlight_81.pdf
  3. ^ フェローに聞く「九州初バーチャル広報職員 九州あおい始動!:その誕生秘話に迫る」
    https://www.rieti.go.jp/jp/special/af/079.html
  4. ^ Special Report「政府広報のフロンティア〜総理官邸と政策担当の現場から」
    https://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/161.html
  5. ^ 同上
  6. ^ rietichannel「コロナ禍の今、何が起きているのか? 〜 「声なき声」に耳を澄ませる」(動画)
    https://www.youtube.com/watch?v=WDzVFODJn2c
参考文献
  • Luft, J.; Ingham, H. (1955). "The Johari window, a graphic model of interpersonal awareness". Proceedings of the Western Training Laboratory in Group Development. Los Angeles: University of California, Los Angeles.

2022年6月7日掲載

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