九州初バーチャル広報職員 九州あおい始動!:その誕生秘話に迫る

中川 由佳
コンサルティングフェロー

距離や時間に関係無く、九州経済産業局の様々な支援施策や魅力などを身近にわかりやすくお届けすべく誕生したアンドロイド型バーチャル職員「九州あおい」。
彼女がどのように生まれて九州を元気にしているか、RIETIコンサルティング・フェロー中川由佳さんに取材しました。RIETIも応援しとるとよー。

本コンテンツはrietichannel(YouTube)にて提供いたします。


――九州経済産業局で「Vチューバー」を始められたそうですね。

Vチューバー(バーチャルユーチューバー)は、通常YouTubeではリアルに人が画面に出演しますが(ユーチューバー)、その出演者をバーチャルのキャラクターに置き換え、動きも専用のモーションキャプチャーという機材を使って撮影し、配信するものです。
九州経済産業局では、バーチャル広報職員「九州あおい」(あおいっち)を通じて情報発信を行っています。課室を超えたメンバーで昨年始め、様々な政策紹介や若い方に向けてのリクルート用など、現在計22本の動画を作成し配信しています。

これまでの九州経済産業局の広報は、ホームページやFacebook、twitterへの投稿、説明会やセミナーの開催、パンフレットやチラシの配布、メールマガジンの配信などでした。YouTubeなど動画配信がこれだけ普及しているのに、場所と時間が拘束される説明会に行かないと情報が得られない、ホームページに掲載されている紙の資料を読まないとわからないのは問題だと思い、「行政は今こんなことをしてるんだな」「こういう施策があるんだな」などがもっと簡単にわかれば、多くの方が情報を得やすくなるのではと。

そこで、有志の職員で検討会を始めました。例えばVチューバーを使ってはどうか、ではどうやって作るのか、モーションキャプチャーの機材の費用はどうするか、配信は誰が担当するかなど、問題を一つずつクリアしていきました。当時の九州経済産業局の課題は新卒者の採用で、九州経済産業局というものを知っていただくため「九州あおい」というキャラクターを作り、動画を作って配信を始めました。局長の定例会見で「バーチャル職員が始動しました」と発表し、新聞やテレビでも取り上げて頂きました。局のホームページや職員の名刺の裏面にも「九州あおい」を掲載しています。

おかげさまで「九州あおい」は、第1作目が公開から2週間で2500回を超える視聴数となり、これは経済産業省の「METIチャンネル」の動画の中でも割と高い数字でした。SNSやtwitterでも周知したので、当初は若い方が反応してくださるだろうと予想していましたが、弁理士さんがリツイートしてくださったり、九州のゲーム会社の社長さんのツイートに登場したこともありました。九州経済産業局のツイッターには、いつもそれほど「いいね」がつかないのですが、「九州あおい」はリツイートが60回、「いいね」は80回と、未開拓の層にもリーチができたと思っております。

また、局の広報室あてに学生さんからメールで「堅苦しい文章ではなく、とても親近感が持てる動画を配信していることや、そもそもこういった動画を作って配信する取り組みをされていることに魅力を感じました」と、採用に直結するようなお声も頂きました。他にも、経済産業省が選定する「ものづくり日本大賞」を受賞された企業を訪問した際に「九州あおい見てますよ」と、記念品として作ってくださった「九州あおい」のキャラクターのクリアファイルやボールペンを作成してくださるなど、多くの方に見て頂いていることにとても感激しました。

そうした中で、有志しか動画を作れないのは局内での広がりにつながらないと感じ、局内向けの研修を開催して、誰でも気軽に動画が作れるようノウハウを広めています。今後は局内における政策情報発信ツールというだけなく、地域や企業の情報発信・ご紹介にも取り組んでいきたいです。

――業者に依頼せず職員の皆さんが動画を作成されたのですね?

外部に丸投げするのではなく、企画やシナリオ、音声の収録、編集まですべて局の職員です。初めて動画を作るときは20〜30時間はかかると思いますが、一度作るとノウハウが自分自身や周りのメンバーにも蓄積しますので、かかる時間は短くなっていきます。また、「そもそも何を発信したいか」という企画を練るトレーニングにもなっています。

――職員の方が自ら編集されているのは驚きですが、Vチューバーの企画によく局内でOKが出ましたね。若手の取り組みは、「粘土層」と言われる中間層に阻止されたり、トップの理解を得られなかったりするものですが、そういった問題はなかったのでしょうか?

ます有志メンバーで、各部の管理職の皆さんに、正式なご説明というより「こういう計画についてどう思われますか」「こういうものがあったら面白くないですか」と何となく共感して頂けるような雰囲気を醸成していきました。また、「広報」なので、総務課や広報室にも相談しています。

実は、まず局長に「こういった計画が始まったらどう思いますか」という形で根回しをしたのですが、局長が「面白いんじゃない?」言ってくださったのです。反対する方も1人もおらず「ならばやってみよう。やれるところまで走ってみよう」というメンバーの熱量や、最終的にきっと局長が後押ししてくださるであろうという、我々の気持ちの高まりもあったので、前向きにプロジェクトが進んでいったのだと思います。

――まずトップを上手く味方にした上で、中間の粘土層に対しては明確に上げるのではなく、ふわっとした形で浸透させ、穴をあけていくやり方だったのですね。Vチューバーの取り組みによってどんなインパクトがありましたか?

外部から非常にたくさん良い反応を頂き、我々も大変励みになりました。私が全く知らないところで新たに動画が作られていたり、本省とコラボをしてみたり、それぞれのアイディアで「九州あおい」を使って楽しく取り組む経験をしたことが、組織のエンゲージメントの高まりに非常に効果的だったと思っています。
当初は、新卒者のリクルートや行政からの情報を伝えたいという思いで始めましたが、結果的に、我々が持っている魅力や価値、政策を、どうすればわかりやすく伝えられるか、受け手の気持ちに立って考えてみたり、新しく面白いことやってもいいんだという気持ちが職員の中に広がっていったことがインパクトだと思っています。

――自ら情報発信し、自分たちの作っている「社会を良くする薬」を患者さんのところまで届けようというマインドが行政官の皆さんに芽生えたことが素晴らしいですし、「いろいろなことに挑戦していいんだ」という「組織文化の改革」ができたのは本当にすばらしい成果だと思いました。最後に読者の方へのメッセージを頂けますでしょうか?

九州経済産業局では、企業の方から「CMを使う余裕は無いが、我々の情報をいろんな方に届ける方法はないか?」というご相談を受けることがあります。動画を作るというのは一つのアウトプットでしかありませんが、企業でも動画を作ってみて頂くと、その動画を作る過程で、届けたい価値やメッセージは何なのかということを、もう一度立ち返って考えるいいきっかけになるのではと思います。動画というものは、楽しみながら「どうすれば我々のメッセージが伝わるか」を考えつつ作ることができるので、社内のエンゲージメント強化にも活用いただけるのではないか思います。ぜひ企業の皆様も御社ならではのオリジナル動画作成にチャレンジしてみて頂きたいです。引き続き「九州あおいチャンネル」も是非ご覧ください。

2021年11月24日掲載

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