新春特別コラム:2024年の日本経済を読む~日本復活の処方箋

諦めるのをやめましょう 〜 「アメリカに追いつき追い越せ」セカンドシーズン

佐分利 応貴
上席研究員

2023年は日本がGDPでドイツに抜かれ世界第4位に後退した。また、正月から能登半島地震などつらいニュースが次々と飛び込んでくる。何か明るい話題はないものか。

ネットで調べると「生産性が10倍になる」という本がいくつか見つかった(注1)。ほう、そんな黒魔術があるならきっと日本経済も復活できそうな気がする(ブラック企業も増えそうで怖い気もする)。

せっかくの正月なので、少し夢を見た。いまは昼間だが。

1.国の豊かさを決めるのは生産性

国民生活の豊かさ(1人あたりGDP)は、労働生産性に依存している(注2)。労働生産性が倍になれば、もちろん労働市場や為替への影響があるものの、1人あたりGDPはかなり上昇するだろう。ましてや10倍になれば… 米国経済さえ凌駕できるのではないか。

ちなみに、いまの日本の国民1人あたりGDPは残念な状況にある。バブル期の1987年、日本の1人あたりGDPは21,178ドルと米国の20,001ドルを超えた。ついに「アメリカに追いつき、追い越した」のである。その後も日本の国民1人あたりGDPは上昇を続け、1995年には44,210ドルと米国の1.5倍になった。しかし、その後日本の国民1人あたりGDPは低迷を続け、2012年の49,175ドルをピークに直近の2023年IMF予測では33,950ドルと、米国(80,412ドル)の約4割まで落ち込んでいる。なぜここまで差がついてしまったのだろう。

国民一人当たりGDP
(出典:IMF Data を基に筆者作成)

2.躍進したアイルランドとシンガポール

この日本の「失われた30年」に、大きく躍進した国がある。1人あたりGDPで世界2位のアイルランド、第5位のシンガポールである。1位はルクセンブルクだが、ルクセンブルクは人口57万人の金融都市であり、東京の新宿区(35万人)と渋谷区(24万人)が1つの国として独立しているようなものなので、人口100万人以上の国としては人口約500万人のアイルランドが世界一である。かつてジャガイモ飢饉(1845-49)で人口が激減し、戦後も「欧州経済の問題児」とされていたアイルランドと、1965年に独立しエネルギーはおろか水すら自給できない島国のシンガポールは、見事な経済発展を遂げた。アイルランドは外国直接投資の誘致、高い教育投資、EUへの統合によって高い経済成長を実現し「ケルトの虎」と呼ばれ、その後リーマンショックにより大打撃を受けるも劇的な回復を達成して「フェニックス(不死鳥)」とも称されている。シンガポールもまた、強力な政府のリーダーシップの下で、積極的な外国直接投資の促進、高い教育投資、そして効率的な経済管理によって高い経済成長を実現した。いまや1人あたりGDPで世界30位、イタリアにも抜かれてG7最下位となった日本に対し、シンガポールの1人あたりGDPは日本の2.6倍、アイルランドは同3.3倍となっている。… なんだこれは。

ちなみに、労働生産性については(公財)日本生産性本部が毎年労働生産性の国際比較データを公表している。これを見る限り、日本の生産性が高かったのは2000年頃までの製造業(世界1位)のみで、その製造業もその後大きく順位を落とし、2021年は世界18位と低迷している。一方、アイルランドは2005年から製造業でも常に首位を維持している。その中心は、誘致した製薬産業や半導体産業などの外国企業である。

製造業の労働生産性水準上位20カ国の変遷
(出典:(公財)日本生産性本部(2023)「労働生産性の国際比較 2023 概要」, p.7)
労働者一人当たり生産性(USドル/時)
(出典:OECD Stat より筆者作成)

3.生産性を10倍にするには

アイルランドも、シンガポールも、生産性の高い外国企業を国内に誘致して、国民1人あたりの生産性とGDPを伸ばしてきた。では、同じ会社が生産性を10倍にすることは不可能なのだろうか。

10%の生産性改善なら工夫すればできるかもしれないが、10倍となるとそうはいかない。だからこそ既存の枠組みを変える発想が生まれる。例えばこんな。

Q:朝の出勤時にエレベーターの前に長蛇の列ができる。解決策を示せ。
A1:エレベーターを増設する。(無理なので却下)
A2:エレベーターの制御ソフトを改良し、時間差で出発させるようにする。(カイゼン思考)
A3:問題は待ち時間のイライラなので、エレベーターホールのディスプレーに経済ニュースなどを流してイライラさせなくする。(転換思考)
A4:エレベーターに乗る前に入り口で会社のタイムカードを押せるようにする。(解決思考)
A5:テレワークにして出社しなくても良くする。(イノベーション思考)

そういうことだ。生産性を10倍にするには、前提そのものから変えなければならない。日本は経営トップから現場のラインスタッフまで全員で不良品ゼロを目指し、世界で最初に実現してしまった恐るべき国である。だったら、トップから現場まで全員が生産性10倍のためにはどうすればいいかを考え続ければ、決して不可能ではない。DXやロボットなど、昔より使える道具もそろっている。

最後にChatGPTにホワイトカラーの生産性を10倍にする方法を聞いてみた。

Q:ホワイトカラーの生産性を10倍にする方法を教えてください。
A:ホワイトカラーの職場で生産性を10倍に向上させるための方法は、以下のような戦略に集約されます。
テクノロジーの活用:生産性を高めるためには、最新のテクノロジーを活用することが重要です。例えば、自動化ツール、クラウドベースのアプリケーション、AIや機械学習を活用してルーティンワークを効率化します。
タイムマネジメントの改善:優先順位を設定し、時間を効果的に管理することが必要です。これには、タスクの優先順位付け、無駄な会議の削減、集中力を高めるための短い休憩の導入などが含まれます。
遠隔勤務の促進:テレワークやフレキシブルな勤務スケジュールを提供することで、従業員の仕事とプライベートのバランスを改善し、結果的に生産性を向上させることができます。
継続的な教育とトレーニング:従業員のスキルを継続的に向上させるためのトレーニングや教育プログラムを提供することで、彼らの能力と生産性を高めることができます。
コミュニケーションと協力の促進:チーム内の透明性を高め、オープンなコミュニケーションを促すことで、協力しやすい職場環境を作ります。
健康とウェルネスへの投資:従業員の健康とウェルビーイングに投資することで、疲労を軽減し、エネルギーレベルを高めることができます。
これらの戦略を組み合わせることで、ホワイトカラーの職場での生産性を大幅に向上させることが可能です。

… なんと3章の残りが一瞬でできてしまった。こりゃ1章、2章もChatGPTに書いてもらえば生産性は10倍になったのではないか。

生産性が10倍になれば、きっと国民1人あたりGDPも今の10倍になり、日本のGDP(4.2兆ドル)も10倍になって米国のGDP(27兆ドル)に追いつき、追い越すはずだ。もちろん生産性が10倍になったら労働市場や他産業への影響、為替への影響もあるだろうが、この際細かいことを気にしてもしょうがない。景気は「気」から。大事なことは米国に必ず追いつくという気合いである。米国を超える経済大国になれば、他国から経済的威圧を受けることもないだろう。ましてや日本は戦争に決して訴えない、法の秩序を守る平和国家である。世界も平和になるに違いない。白い猫だろうが黒い猫だろうが、ネズミを捕る猫がいい猫である(鄧小平)。外国企業だろうが日本企業だろうが、外国人だろうが日本人だろうが、男性だろうが女性だろうが、高齢者だろうが若手だろうが、学歴があろうがなかろうが、日本の生産性を上げられる人がいい人である。(そもそも政府の生産性は上がっているのだろうか?)

「憧れるのをやめましょう」が2023年の流行語大賞にノミネートされたそうだが、だったら2024年は「諦めるのをやめましょう」を流行語にしよう。うん、そうしよう。

脚注
  1. ^ 本間卓哉(2017),「全社員生産性10倍計画」, クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
    平塚知真子(2020), 「Google式10Xリモート仕事術―あなたはまだホントのGoogleを知らない」, ダイヤモンド社 他
  2. ^ RIETI JIPデータベース 生産性Q&A https://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2012/ans.html

2024年1月10日掲載

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