経済安全保障に対応する企業行動の多面性:製造業企業アンケートに基づく調達先見直し・輸出管理対応・投資見直しに関する実証分析

執筆者 伊藤 萬里(リサーチアソシエイト)/神事 直人(ファカルティフェロー)/直井 恵(カリフォルニア大学サンディエゴ校)
発行日/NO. 2026年5月  26-J-026
研究プロジェクト 企業のグローバルな経済活動が直面する課題と直接投資の効果に関する研究
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概要

本稿は、経済安全保障への関心の高まりが企業のグローバルな事業活動(輸入・輸出・外国直接投資)に与える影響に着目し、日本の製造業企業を対象としたアンケート調査を企業データと接続することで、経済安全保障対応を促す要因を実証的に明らかにする。経済安全保障への対応は企業にとってコスト増を伴う一方、供給途絶等による社会的損失を抑制する上で重要であり、企業間で対応能力・インセンティブの格差が生じ得る。本稿では、①海外調達の見直し(調達先変更)、②安全保障輸出管理の見直し(厳格化、輸出先変更、停止等)、③直接投資の見直し(対外・対内、投資中止、出資比率引下げ、撤退等)の三側面を分析対象とする。推計結果から、研究開発集中度が高く、規制対象輸出品を扱い、対中依存度が高い企業ほど、一貫して対応が進みやすい傾向が確認される。他方、対応の種類による異質性も観察される。海外調達の見直しでは、北米市場への曝露が高い企業ほど、上流工程に位置する場合に経済安保を理由とした調達先変更が促進され、需要側外圧の上流への伝播が示唆される。輸出管理対応では、国際事業部門の厚みや政府による情報支援など、企業内部の実行能力の向上が重要である。直接投資の見直しや対内投資に関する懸念は、技術・規制リスクと地政学リスクの重なりが影響することが示唆される。