訪日外国人旅行者増加が地域経済に及ぼす影響:通勤圏レベルデータによる実証分析

執筆者 松浦 寿幸(ファカルティフェロー)/遠藤 正寛(慶應義塾大学)/斎藤 久光(北海道大学)
発行日/NO. 2025年12月  25-J-032
研究プロジェクト グローバル化の地域経済への影響
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概要

少子高齢化が進むわが国では観光振興が地方経済活性化の起爆剤として期待を集めており、とりわけインバウンド観光客の増加への期待が高まっている。しかし、観光客の増加が観光関連消費の拡大をもたらすことは自明だが、どの程度他産業に波及し、地域経済振興に寄与するかはエビデンスに基づく分析が必要となる。本研究は、日本の地域レベルデータを用いて、観光が地域発展を促すかという観光主導経済発展仮説(Tourism-led growth hypothesis)を再検討するものである。具体的には、宿泊旅行統計調査(観光庁)の調査票情報を通勤圏レベルに再編加工し、地域別の国内・国外からの宿泊者数を推計し、訪日外国人の増加が地域経済の活性化を促したかを分析した。推計にあたっては、地域経済指標と宿泊者数の同時性に対処するためにシフト・シェア操作変数を用いている。分析結果から、インバウンド観光客の増加は、一人当たり課税所得の上昇、若年者人口の増加や商業地価の上昇など一部の経済指標に正の効果を持つが、そのインパクトが顕在化しているのは人口当たり延べ宿泊者数が多い一部地域に限定されることが分かった。