執筆者 | 湯田 道生(リサーチアソシエイト) |
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発行日/NO. | 2024年12月 24-J-031 |
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概要
生活環境を劇的に変える予期せぬ大規模な自然災害は学齢期の子供の教育機会を中断し、彼らの人的資本形成に必要な認知・非認知能力や教育達成に大きな悪影響をもたらす。しかしながら、それによって同時に強制的に制限される運動機会の減少が学齢期の子供の身体的健康に与える影響については、これまで十分に分析されてこなかった。運動と学力に正の相関関係があることを踏まえれば、大規模災害の負のショックに起因する教育リターンは、この正の相関を通して過小に評価されてきた可能性がある。本研究では、運動能力を詳細に計測した政府統計の調査票情報を用いて、局所的に発生した壊滅的な自然災害が学齢期の子供の発育や運動能力に与えた影響を推定している。差分の差分法による分析の結果、発育に対する壊滅的な自然災害の平均処置効果はほとんどないが、より厳格な屋外活動規制を課された地域では、その規制解除後も長期にわたって子供の体重と肥満度が高止まりしていることが確認された。また、大規模自然災害後に運動能力は有意に下がったことが確認されたが、その低下は震災直後の一時的なものが多く、長期的な影響は限定的であることが分かった。さらに、この学齢期の発育や運動能力に与える影響は、胎児起源仮説やライフコースの初期に受ける健康ショックに関する一連の研究とも整合的であることが確認された。これらの証拠は、発育のみならず運動能力を含む身体的な健康水準が教育達成およびそれらを媒介して得られる将来の社会経済地位に与える因果効果の推定において重要な交絡因子になっている可能性を示唆している。