多次元的職業スキル尺度の作成とその社会・経済調査データとのリンク:方法と課題

執筆者 山口 一男(客員研究員)
発行日/NO. 2023年10月  23-J-039
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概要

本稿は米国のO*NETの職業スキルデータを日本版総合社会調査(JGSS)の職業小分類とリンクさせる手法と、その課題点を議論する。米国労働省のO*NETは米国の人口センサスの職業小分類を更に細分化させ2000を超える職業について多次元の職業スキルの尺度を公表している。JGSSがモデルにした米国の総合社会調査(GSS)は米国人口センサスの職業小分類を用いており、このため人口センサスの職業小分類別の各種スキルの平均値を計算できるようになっている。だが、このデータをJGSSにリンクして分析に用いるには2つの問題がある。一つは日本のJGSSの職業分類と米国のGSSの職業分類が1対1に対応しないことである。2つ目は仮に対応しても米国で計測した職業スキルが即日本にも当てはまるかには疑問が残ることである。前者の問題に対しては、下記で述べるように問題は残るが、元のO*NETの分類との対応で補足することで改善できる。後者については、日本での職業スキルの計測が理想だが、また厚生労働省の労働研究・研修開発機構が開発した日本版O*NETの職業スキル尺度が存在するのだが、米国版O*NETと異なり、日本版O*NETの職業分類は独自のもので、職業が網羅的でないなど他の調査とのデータリンクが可能なように設計されておらず、その点今回の分析には利用できない。また一般に日本の職業分類は、米国と比べ、産業分類が混在し、職業スキルの計測に必ずしも適していない。これには日本における職業分類の発達の歴史的経緯が関係している。これらの事実を明らかにしながら、本稿は日本版職業スキルが、他の調査とリンクでき、かつ職業スキルを有効に測定できるようになるためにこれらの課題について、米国版O*NETとJGSSデータのリンクの具体的方法と合わせて議論する。