「科学技術スキル」と「対人サービススキル」の2種の職業スキルが日本の労働市場においてどう評価され、またそれが男女賃金格差や非正規雇用による人材の不活用にどう結びついているのか

執筆者 山口 一男(客員研究員)
発行日/NO. 2023年9月  23-J-033
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備考

初版:2023年9月
改訂版:2024年1月

概要

日本版総合社会調査(JGSS)の2000-2018年調査データを米国O*NETの職業スキルデータと職業の小分類レベルでリンクさせたデータを用いて、(1)科学技術スキルの高い職、(2)対人サービススキルの高い職、及び比較のため(3)管理職、の3種の職業特性について、分析1としてその決定要因の共通点と相違点を明らかにし、特に(1)と(3)の決定要因の違いが、日本における女性の労働市場における活躍の推進について全く異なる政策を要することを明らかにする。また分析2として上記2種の職業スキルが賃金にどのような影響を与えるか、特に男女賃金格差や非正規雇用による人材の不活用に、どう結びついているのかを明らかにする。

特に科学技術スキルの高い職に就くことに関する男女格差の要因の本稿での解明は、STEM(Science, Technology, Engineering, and Mathematics)の分野での女性の活躍の推進に関し、実証的な指針を与えている。また本稿は非正規雇用とその拡大が、いかに過去そして今後も高学歴化やリスキリング政策など、人材投資によって国民がよりスキルの高い職に付くことができ、またその結果賃金も上昇するという流れに拮抗し、人材投資のベネフィットをかなりの程度無にしかねないということを、間接的ながらも、実証している。

また理論的には従来ミンサー流の計量的人的資本研究では、仲介変数としての職業の役割が軽視されてきたのに対し、本稿は職業スキルを仲介変数として導入することが、職業と人的資本のマッチングの効果に関し、新たな分析の活路となることを示している。また職業スキルの尺度を用いた分析の重要性を示すことで、日本版職業スキルの尺度の作成が、リスキリング政策など人材投資政策の評価にとって今後不可欠であることも強調している。