心疾患の血圧を中心としたリスク要因に関する分析

執筆者 縄田 和満(一橋大学)
発行日/NO. 2023年2月  23-J-006
研究プロジェクト 新型コロナウイルスの登場後の医療のあり方を探求するための基礎的研究
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概要

心疾患は世界的には最も主要な死亡原因となっており、我が国においても第2位の死原因であり、その予防は大きな課題となっている。このため、リスク要因、特に血圧と関係に関して多くの研究が行われている。2017年にAmerican College of Cardiology (ACC)・American Heart Association(AHA)およびその他の組織が共同で、2017 ACC/AHAガイドラインを発表した。2017 ACC/AHAガイドラインでは高血圧の基準がこれまでの140/90mmHgから130/80mmHgへと引き下げられた。

本論文では、心疾患 のリスク要因、特に血圧との関連に関してJMDC Claims Databaseの健康診断データを使って分析を行った。データベースには、3,233,271人から集められた13,157,681 件の健康診断のデータが収録されている。t年に心疾患(heart disease, HD)の病歴がなく、翌年(t+1年)に心疾患の病歴のデータが得られる個人を対象とし、翌年までの心疾患の発症確率をプロビットモデルにより分析した。

収縮期血圧(systolic blood pressure, SBP)と心疾患の発症率の2変数のみを比較した場合、プロビットモデルの推定値のt値は非常に大きな値となり、明確な正の関係が認められた。しかしながら、年齢、性別などの変数を共変量とした場合、有意な関係は認められなかった。 これは、SBPと心疾患の関係が見かけ上のものに過ぎない可能性を示唆している。年齢の影響を評価するのに40-64歳、65歳以上といった長い期間のダミー変数を用いた場合、SBPの推定値は有意となった。これは年齢の間隔が長すぎてSBPが年齢の代理変数となってしまっている可能性を示唆していると考えられる。

さらに、多数の共変量を含むモデルを用いて分析を行った。血圧に関する変数の推定値は5%の水準においても有意ではなかった。 降圧剤を服用しているかどうかのダミー変数の推定値は、高度に有意であり、心疾患のリスクと正の関係が認められた。これらの結果は、2017 ACC/AHAガイドラインは支持せず、心疾患の高血圧に関する治療に関しての再検討の必要性を示唆していると考えられる。特に、2017 ACC/AHAガイドラインは、Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT)の結果を主要な理由としているが、SPRINTの結果を一般大衆の基準とするには統計的に大きな問題があるとされてもいたしかたない。

血圧以外では、ヘモグロビンA1c、尿蛋白、1年以内の体重変化、コレステロール、ALT、睡眠に関する変数の推定値が有意となった。推定値の符号はほぼ予想通りであったが、コレステロールに関しては、コレステロールの種類によらず、その上昇がむしろ心疾患のリスクを減らすという結果を得た。コレステロールと関係に関しても再評価の必要性が示唆された。最後に新型コロナウイルスと降圧剤の関係について記述した。