引退後の高齢者の健康推移:公的年金制度改革を利用した実証研究

執筆者 陳 鳳明(東北大学)/若林 緑(リサーチアソシエイト)/湯田 道生(リサーチアソシエイト)
発行日/NO. 2022年10月  22-J-034
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概要

財政健全化の目途が立たない中で超高齢社会を間近に控えた日本において、高齢者の健康状態や生活の質および健康寿命の延伸と、それらに関連する医療費や介護費などの社会的コストとのバランスを科学的な観点から検証する必要性が大いに増している。本研究では、労働市場からの引退がその後の健康推移に与える影響に関して、2007年から2013年に4回にわたり実施されている『くらしと健康の調査(Japanese Study of Aging and Retirement: JSTAR)』の個票パネルデータを使って検証した。退職の内生性を処理するために、日本の公的年金制度の報酬比例部分の支給開始年齢の変更という外生的な制度変更を用いて、固定効果操作変数法で分析した。引退がその後の健康状態に及ぼすメカニズムは多種多様かつ複雑で、先進諸国間でも様々な結果が報告されているが、我々は、引退によって口腔機能とメンタルヘルスが有意に改善する一方で、生活習慣病を患う確率が有意に高くなることを確認した。さらに、引退後に歯科利用率が有意に高まることが、口腔機能の改善につながっているというメカニズムが有力である結果を得た。また、労働からの解放がメンタルヘルスの改善に、健診機会の減少が生活習慣病の発症につながっていることを示唆する結果も得られた。