中国のデータガバナンス:データ取引市場の推進と国家安全の強化

執筆者 渡邉 真理子(学習院大学)
発行日/NO. 2022年5月  22-J-019
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
ダウンロード/関連リンク

概要

現在、デジタル技術の進展が経済の姿を大きく変化させている。デジタル化が技術革新の核心である。この進展の中で、現在の段階では、データ主体、データ処理主体の間の力関係の非対称性が大きく、たとえば消費者のデータを大量に握るプラットフォーム企業の独占的行為の弊害が目立つ。データガバナンスが必要となっている。

中国は、2021年までにデータガバナンスにかかわる法整備を行った。本稿では、それを概観する。第一に、データに関する国家安全の保護意識が強く、広い範囲で個人の権利保護よりも優先される可能性が高い。第二に、徹底した対外防御の姿勢をみせ、データの越境移転に関して政府が介入する幅が広い。第三に、プライバシー権と個人情報保護の範囲が明確になり、データ処理のプロセスもルール化された。そのうえで、(1)データの公開・資産としての取引を促す具体的な政策がスタートした、(2)データの越境移転に関しては、内外差別的な政府介入が起きている、(3)プラットフォームなど特定企業のデータ専有には競争促進的な介入をしている。

中国のデータに対する政府の関与は、公共政策としてのデータ経済の進歩に資するものと、国家の安全保障の確保のためのものの2つのファクターの強化が進んでいる。後者に関しては、個人が国家の安全に資することを重視した動きになる可能性がある。