いわゆる「ターゲットダンピング」について~WTO協定解釈の到達点と限界~

執筆者 宮岡 邦生 (森・濱田松本法律事務所)
発行日/NO. 2021年7月  21-J-034
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
ダウンロード/関連リンク

概要

アンチダンピング協定第2.4.2条第2文は、いわゆる「ターゲットダンピング」に関する規定とされる。しかし、規定文言が曖昧かつ難解なため、その解釈を巡っては様々な見解が対立してきた。解釈の方向性は、大きく、①一定の要件が満たされた場合にはゼロイングの適用を許容した規定であるという米国等が採る立場と、②特定の顧客、地域又は時期を狙い撃ちにした安値輸出への対抗手段を認めたものであるとの立場に分けられる。上級委員会は、US – Washing Machines事件(DS464)で後者の立場を採ることを明らかにし、米国によるゼロイングの使用は第2.4.2条第2文に違反すると判断した。しかし、その後も米国はゼロイングの実務を続けており、また、後続のパネルでもゼロイングを認めたものが現れている。第2.4.2条第2文の解釈を巡るこれらの混乱は、そもそもウルグアイラウンド当時の交渉国の対立と、これに起因する協定文言の曖昧さに起因する。上級委員会やパネルによる同規定の解釈の精緻化は、国際協定解釈の到達点を示すと同時に、立法論の領域に片足を踏み入れることの危うさをも孕んでいる。