2019年・財政検証と年金財政に関する一考察 ― 経済前提の一つであるTFP上昇率の評価を巡って ―

執筆者 小黒 一正 (コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2020年10月  20-J-042
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概要

本稿では、過去30年超のTFP上昇率に関するデータを用いて、簡単な確率モデルを構築した上で、モンテカルロ・シミュレーション法により、2019年・財政検証の各ケースが前提とするTFP上昇率の実現確率を推計し、財政検証における経済前提や年金財政の課題を考察している。まず、2014年・財政検証までの資料には、どのシナリオの妥当性が確率的に高く、どのシナリオの妥当性が確率的に低いのかという情報が存在しなかった。しかしながら、2019年・財政検証では、そのコアとなる重要なパラメータ(例:TFP上昇率)について、過去データに基づく度数分布を参考資料集の一部に挿入し、各シナリオの前提が度数分布のどこに位置付けられ、度数分布のうち何割をカバーするのかを明らかにした。この試みは評価すべきだが、そのカバー率は財政検証が前提とするTFP上昇率の実現確率と一致しない。これは、財政検証の前提とするTFP上昇率について、一定の確率モデルを用いて評価する重要性を示唆する。