執筆者 | 小黒 一正 (コンサルティングフェロー) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
周知のとおり、年金財政の健全性は、法律に基づき、年金財政の健康診断に相当する「財政検証」を少なくとも5年に一度実施することで確認されるが、財政検証の実施において重要な前提となるのが「①人口の前提」「②労働力の前提」「③経済の前提」等である。
これら前提のうち、財政検証の結果に最も影響を及ぼすのはTFP上昇率や物価上昇率・賃金上昇率・運用利回り等の「経済の前提」だが、財政検証では、①・②・③の前提を組み合わせながら、長期的に妥当と考えられる複数のシナリオを幅広く想定して推計を行っている。
複数のシナリオを幅広く想定して推計する方法は、年金財政の検証において多角的な情報の提供に貢献するのは明らかだが、財政検証の結果を受け取る人々にとっては、複数のシナリオのうちどの妥当性が高いのか、判断が難しくなるという問題を引き起こす。
2019年・財政検証においても、財政検証の前提や各シナリオの実現確率に関する情報は存在しないが、そのコアとなる重要なパラメータ(例:TFP上昇率)については過去データに基づく度数分布図(ヒストグラム)を公式資料に挿入し、各シナリオの前提が度数分布のどこに位置付けられ、度数分布のうち何割をカバーするのかを明らかにした。
このような度数分布に関する内容は前回(2014年・財政検証)までは存在しなかったものであり、その試みは評価すべきだが、度数分布のカバー率が財政検証の前提であるTFP上昇率などの実現確率と一致するとは限らない。
そこで、本研究では、過去30年超のTFP上昇率に関するデータを用いて、いくつかの簡単な確率モデルを構築した上で、モンテカルロ・シミュレーション法により、2019年・財政検証の各ケースが前提とするTFP上昇率の実現確率を推計し、財政検証における経済前提や年金財政の課題を考察した。
シミュレーション分析の結果、2019年・財政検証の資料(TFP上昇率の度数分布)のカバー率(図表の②)は財政検証が前提とするTFP上昇率の実現確率(図表の③や④)と一致しないことから、財政検証の前提とするTFP上昇率について、一定の確率モデルを用いて評価することの重要性を示唆することが分かった。
ケースⅠ | ケースⅡ | ケースⅢ | ケースⅣ | ケースⅤ | ケースⅥ | |
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2019年・財政検証における TFP上昇率の前提(①) |
1.3% | 1.1% | 0.9% | 0.8% | 0.6% | 0.3% |
TFP上昇率の度数分布における ①のカバー率(②) |
17% | 40% | 63% | 67% | 83% | 100% |
TFP上昇率の実現確率(③) (確率モデル:\(x=∆ρ\)) |
0.38% | 0.86% | 1.62% | 4.78% | 12.3% | 91.84% |
TFP上昇率の実現確率(④) (確率モデル:\(x=∆^2ρ\)) |
21.2% | 28.94% | 36.12% | 44.9% | 54.22% | 80.78% |
(出所)筆者作成。上記①の「2019年・財政検証におけるTFP上昇率の前提」は以下のとおり。 |
